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アジア勢の躍進が光るフェンシングの「サーブル」。期待の日本人サラブレッドも東京五輪をめざす

JOCの強化策により日本では東京五輪への有望選手が台頭

サーブルにおいては頭や両腕を含む上半身が「有効面」となる

サーブルは、フェンシングのなかでも特にスピーディーに勝敗が決する種目だ。リーチだけでなく、俊敏性も強みとなることから、近年ではアジア勢の躍進がめざましい。日本勢も2020年の東京五輪では、「エリートアカデミー育ち」の江村美咲らが悲願の表彰台入りを狙う。

「サーブル」はハンガリー騎兵隊の剣技から発展

フェンシングは第1回のアテネ五輪から正式種目として採用され続けている、2020年の東京五輪で実施されるのは「フルーレ」「エペ」「サーブル」の3種目で、男女とも個人と団体の計12種目が行われる。

「サーブル」はハンガリー騎兵隊の剣技から発展した競技と言われている。フルーレとエペとの大きな違いは得点となる体の範囲だ。サーブルにおいては頭や両腕を含む上半身が「有効面」となり、各選手は主に相手の頭、腕、胴体などを狙って攻撃する。選手は専用の金網ジャケットとマスクを着用し、剣は全長105センチ以下、重量500グラム以下、ガードは直径14センチメートル、先端までは88センチメートル以下と定められている。

サーブルは、胴体が有効面となるフルーレと同様に、先に腕を伸ばして剣先を相手に向けた選手が優先権を獲得し、相手が防御すると優先権が移る。フルーレとエペが「突き」だけの競技であるのに対して、サーブルでは「斬り(カット)」の動作も有効で、他の2種目よりもダイナミックな剣さばきが特徴だ。試合展開がスピーディーで、3種目のなかでも決着がつくのが速いため、素早い攻撃を得意とする選手が有利となる。

拮抗した試合ではコイントスも重要に

フェンシングの勝敗の決め方は、個人戦の予選と決勝トーナメント、そして団体戦とでは微妙に異なる。

6、7名の総当たり戦となる個人戦の予選は、3分間で5本先取したほうが勝利と、短時間で決着がつく。決勝トーナメントに入ると、3分×3セットの9分間で15点を先取したほうが勝利。どちらかが規定の得点を取る前に時間が経過した場合は、ポイント数の多いほうが勝利で、同点の場合には、1分間で1点先取の延長戦が行われる。この時、サーブルではコイントスなどによって優先権が決められ、優先権を獲得した選手が先に攻撃をすることができる。延長戦でも決着がつかなかった場合には、延長戦前のコイントスなどで優先権を獲得した選手が勝者となる。

一方、団体戦は、1チーム4名のうち3名による総当たり戦が基本。5点先取制の3分間の試合を9対戦行い、45点を先取したチーム、または9対戦での得点数が多いほうが勝利となる。団体戦でも個人戦と同様に、時間内に勝負が決しなければ1分間で1点先取の延長戦を行い、それでも勝負が決まらない場合は、延長戦前のコイントスなどで優先権を取ったチームに勝利が与えられる。

リオデジャネイロ五輪の女子サーブル個人ではロシア勢が金銀を獲得。団体でも金メダルを手にしている

古豪ハンガリーが復権し、ロシア勢も台頭

男子サーブル個人は、1896年の第1回アテネ五輪から実施されており、地元ギリシャのイオアニス・ゲオルギアディスが初代王者に輝いている。1900年代前半はサーブル誕生の地であるハンガリーが圧倒的に強く、サーブル団体では1928年から7大会連続で金メダル獲得と一代を築いた。その後はフランスやロシアなど他国の台頭を許したものの、直近のハンガリー勢ではアーロン・シラーギが2012年、2016年と2大会連続で金メダルを獲得。個人では、1984年と1988年のジャン・フランソワラムール(フランス)以来となる連覇達成で、種目発祥国として面目躍如を果たしている。

女子はサーブル個人の種目が2004年のアテネ五輪から正式種目に加わり、団体は北京五輪とリオデジャネイロ五輪のみで実施されている。アテネ五輪と北京五輪の女子サーブル個人では、マリエル・ザグニスが連覇を果たしている。リオデジャネイロ五輪ではロシア勢が大躍進。個人種目でヤナ・イグリアンが金、ソフィア・ベリカヤが銀、団体でも金とロシアが表彰台を陣取った。

日本勢は残念ながら、ここまでのオリンピックのサーブル競技ではメダルに手が届いていない。直近のリオデジャネイロ五輪では、男子個人戦の徳南堅太、女子個人制の青木千佳ともに初戦で姿を消しており、自国開催となる2020年の東京五輪では、初の表彰台入りが熱望される。

江村美咲は両親ともに元フェンシング選手の「サラブレッド」。2018年12月の全日本選手権大会でも優勝を果たしている

「サラブレッド」江村美咲が女子国内ランク1位

オリンピックでの結果が示唆するとおり、日本においてはフェンシングはまだマイナー競技の域を抜け出していない。さらには、フルーレが主流であるためにサーブルの競技人口は少数派と言える。ただし、近年は若年層を中心にエペ、サーブルの強化に取り組んできた結果、3種目とも競技レベルは向上傾向にある。

リオデジャネイロ五輪に出場した青木千佳は、東京五輪での活躍が期待される一人だ。身長159センチメートルと小柄な体格を生かした俊敏性をもって、2015年のアジア選手権で準優勝、2016年の女子サーブルフランスワールドカップでは3位入賞。国際舞台で着々と実績を残し、2017年の全日本フェンシング選手権でも優勝を果たした。初戦敗退に終わった前回五輪の悔しさを糧に、2020年はリベンジを狙う。

2019年4月に中央大学の3年生になる江村美咲は、2018年1月に行われた女子サーブルアメリカワールドカップで銀メダル獲得という快挙を達成し、一躍、日本フェンシング界のヒロインとなった。フェンシングでオリンピックに出場した経験のある父と元世界選手権代表の母を持つ「サラブレッド」であり、日本オリンピック委員会(JOC)が選手強化のために取り入れた「エリートアカデミー」育ちの有望株だ。2018年12月時点で女子サーブル個人の国内ランキングトップにつけており、2018年12月に行われた全日本選手権大会の女子サーブルでも優勝を果たしている。

男子では、吉田健人が2018年12月時点で国内ランク1位に君臨している。2017年の世界選手権では、個人戦において日本勢でただ一人、1回戦を突破。2回戦では、ハンガリーの実力者であるアンドラス・サトマリに13-15と善戦した。リオデジャネイロ五輪日本代表の徳南堅太は、国内2位に位置し、2018年末の全日本選手権では7年ぶり2度目の優勝を果たした。32歳で迎える東京五輪では、豊富な経験を生かした戦いぶりに期待が集まる。

力をつけるアジア勢、韓国男子は連覇なるか

フェンシングは、発祥の地であるヨーロッパにおいて競技人口が多く、オリンピックでもヨーロッパ勢が多くの成功を収めている。リーチの長さが有利に働くという点も、体格の優れた選手が多い欧米勢にとっては強みの一つだ。近年のオリンピックにおけるサーブル種目では、フルーレやエペと同様にフランスやイタリア、ロシア、ハンガリーなどがメダルを争う中心となっているが、その勢力図に変化が見られるようになった。

男子サーブルでは、北京五輪で仲満(ジョンマン/中国)が金メダル、リオデジャネイロ五輪で金政煥(キム・ジョンファン/韓国)が銅メダルを獲得。韓国は直近のロンドン五輪の団体で、アジア勢として同種目初の金メダルに輝いている。男子サーブル団体はリオデジャネイロ五輪では実施されなかった種目のため、前回王者として東京五輪に臨む韓国は、2017年と2018年の世界選手権でも同種目で優勝しており、注目すべきチームの一つと言えるだろう。

女子でもアジア勢が表彰台に食い込むようになった。2004年のアテネ五輪で譚雪(タン・シュエ/中国)が銀、2012年のロンドン五輪で金志姸(キム・ジヨン/韓国)が金、北京五輪の団体で中国が銀と、結果を残している

なお、2004年のアテネ五輪以降、個人はフルーレ、エペ、サーブルの男女6種目、団体は大会ごとに実施種目はローテーションで4種目が実施されてきたが、2020年の東京五輪では、個人男女6種目、団体男女4種目という従来の10種目から、個人男女6種目、団体男女6種目の12種目に増加することが決定している。フェンシング競技は2020年7月25日(土)から8月2日(日)にかけて、隣接し合う東京スタジアムと武蔵野の森総合スポーツプラザ、千葉県千葉市にある幕張メッセのBホールで行われる予定だ。

サーブルではアジア勢の成長も目立つ。北京五輪では仲満(ジョンマン/中国)が金メダルを獲得している

フェンシング:女子サーブル個人 | リオ2016リプレイ

金:ヤナ・エゴリアン(ロシア)、銀:ソフィア・ベリカヤ(ロシア)、銅:オリガ・ハルラン(ウクライナ)