【アスリートの原点】楢崎智亜:クライミング界が誇る"ニンジャ"の基礎は器械体操。「人と争うのが苦手だった」少年は東京五輪で完全優勝を狙う

一時は医学部進学を検討しながら、高校卒業後にプロに転向

2019年の夏に行われた世界選手権で、ボルダリング、そしてクライミング複合競技の金メダルを獲得し、あらためてその才能を見せつけたのが楢崎智亜(ならさき・ともあ)だ。東京五輪代表の座を見事に射止めた。ダイナミックな登りで"ニンジャ"の異名を持つエースの生い立ちからこれまでの歩みに迫る。

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10歳のころ、兄の影響でクライミングを始める

1996年6月22日、のちに日本のスポーツクライミング界に旋風を巻き起こす男が栃木県宇都宮市で誕生した。

楢崎智亜(ならさき・ともあ)は幼稚園の頃から器械体操を習い、抜群の身体能力を発揮していた。その後、小学4年生のときに体操教室に通うことをやめてしまったが、間違いなく当時培われたバネやバランス能力、思い切りの良さは今に生きている。

運命が動いたのは10歳の時。三兄弟の次男として育った智亜少年にとって、兄が通っていたクライミングジムにたまたま遊びにいったことが転機となった。自身は「登っているだけで面白かったし、自由に壁を動き回れるのが何より楽しかった」と振り返ったことがある。すっかりクライミングに魅了され、持ち前の運動神経を武器にめきめきと実力をつけていく。

ただし、3歳下の弟であり、同じくクライミング競技で東京五輪出場を目指す明智(めいち)いわく、小さい頃の智亜は「人と争うのが苦手なタイプだった」という。気が優しく、どうしても人に遠慮してしまうタイプだったが、トップ選手の活躍に焚きつけられた。

高校は進学校として知られる宇都宮北高校に入学し、一時は医学部への進路も検討していたという。この時期、文武両道を体現していたものの、高校卒業後には大学進学を勧める両親の思いに反し、プロクライマーの道に進むことを決意した。

当人いわく「大学に行きながら……というのも考えましたが、それだとダメだった場合に逃げちゃうなと思った」。大会で上位に入っても賞金は渡航費で消えるほどの金額、スポンサーと協会のサポートがなければやっていけない環境。それでも、あえて厳しい状況に自分を置く道を選んだ。

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プロ転向から2年でボルダリングの世界王者に

プロ転向後の2014年の10月にはドイツで行われた世界選手権のボルダリングで10位、2015年には中国で開催されたアジア選手権の同種目で4位と、上々の結果を残すことができた。

そうしたなか、持ち前のフィジカルだけに頼らず、技術を磨き「勝利を優先する登り方」を習得。さらなる高みをめざすなかでメンタルトレーニングにもしっかりと取り組んだ。日本クライマー界の先駆者である野口啓代(あきよ)の「泥臭くても勝ったほうがかっこいい」という言葉にも刺激を受け、勝利にこだわる姿勢を貫くようになった。

そして2016年8月にはついに、クライミング・ワールドカップ(以下W杯)のボルダリングで年間総合優勝を成し遂げてみせる。その後も快進撃は止まらない。翌9月にフランスで開催された世界選手権のボルダリング種目では、日本人として初めて表彰台の中央に立った。会場からはスタンディングオベーションが送られた。「クライミング人生を通しても、本当にいちばんうれしかった」瞬間だった。

東京五輪で採用される「スポーツクライミング」では、得意のボルダリングに加え、スピード、リード種目をすべてこなすコンバインド(複合)が実施されるが、楢崎はこの複合種目でもすぐに圧倒的な存在となった。スピード種目で生み出した"トモアスキップ"は可能な限り壁の突起物であるホールドをスキップして速度を上げる動きで、いまや海外の選手も取り入れるほどの技術となっている。

169センチと小柄な身長を生かし、壁を自由自在に駆け登る姿はまさに"ニンジャ"だ。2019年のボルダリングW杯では2度目の優勝を果たし、日本開催となった世界選手権では、ボルダリングと複合の両種目で金メダルと他を圧倒。見事、東京五輪への挑戦権を手にした。

目の前に立ちはだかる絶壁も、常に自らのフィジカルとメンタルで乗り越えてきた。もちろん出場だけで満足するような男ではない。狙うは完全優勝だ。「目標は金メダル。どの種目でも1位を狙えるようにしたい」。2020年夏、オリンピック初採用の競技で歴史に名を刻もうとしている。

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