シンプルだからこそ奥深い陸上100メートル。東京五輪では日本男子勢の9秒台に期待が高まる

日本勢は88年ぶりのファイナリストになれるか
左から桐生祥秀、サニブラウン・アブデルハキーム、山縣亮太、ケンブリッジ飛鳥。東京五輪での活躍が期待される
左から桐生祥秀、サニブラウン・アブデルハキーム、山縣亮太、ケンブリッジ飛鳥。東京五輪での活躍が期待される左から桐生祥秀、サニブラウン・アブデルハキーム、山縣亮太、ケンブリッジ飛鳥。東京五輪での活躍が期待される

桐生祥秀(きりゅう・よしひで)が2017年に日本人初となる9秒台を記録するなど、陸上100メートル日本男子の台頭がめざましい。世界のトップランナーとの差も縮まりつつあり、2020年の東京五輪では入賞はもちろん、メダル獲得も決して夢ではない。

陸上100メートルは、近代オリンピックの第1回目となった1896年のアテネ五輪から採用され続けている
陸上100メートルは、近代オリンピックの第1回目となった1896年のアテネ五輪から採用され続けている陸上100メートルは、近代オリンピックの第1回目となった1896年のアテネ五輪から採用され続けている

100メートル走はオリンピックの花形種目

オリンピックでの陸上競技は大きく分けて4つに分けられる。競技場内の400メートルの走路で行われる「トラック」、一般道を使ったマラソンや競歩などの「ロード」、走り幅跳びをはじめ、やり投げや砲丸投げといったトラックの内側で行われる「フィールド」、そしてこれらの競技の要素がすべて含まれる「混成」の4つだ。

なかでも屈指の人気を誇る種目と言えば、トラックで行われる100メートル走だ。オリンピックの花形種目と言われ、2020年の東京五輪では陸上男子100メートル決勝のチケットが13万円に設定されている。これは開会式の次に高価な販売価格であり、その注目度の高さがうかがえる。

「100メートルを速く走る」という極めてシンプルな種目は、近代オリンピックの第1回目となった1896年のアテネ五輪から採用され続けている。飛ぶことも、跳ねることも、道具を使うこともなく、ただ100メートルの直線を走り抜ける——まさに己の肉体のみで競い合う100メートル走は、だからこそ世界中の観客を魅了してやまない。

実際、スタートの技術やレースの運び方、選手同士の駆け引きなど注目すべき点は多い。長距離と違い、男女ともにわずか10秒ほどで勝敗が決るため、0.1秒、0.01秒の差がドラマを生み出し、歴史をつくる点も100メートル走の魅力と言える。

ボルト(左端)は2008年の北京五輪から100メートルで3連覇。22歳の時には9秒58という世界新記録をたたき出した
ボルト(左端)は2008年の北京五輪から100メートルで3連覇。22歳の時には9秒58という世界新記録をたたき出したボルト(左端)は2008年の北京五輪から100メートルで3連覇。22歳の時には9秒58という世界新記録をたたき出した

ボルト引退後、世界のタイムは停滞気味

100メートル男子は伝統的に北中米の国が圧倒的な強さを誇っている。過去3大会で表彰台に立ったのはジャマイカ、アメリカ、カナダ、トリニダード・トバゴの4カ国の選手。いずれも北中米の選手だった。

ジャマイカと言えば、稲妻を意味する「ライトニング・ボルト」の異名を持つウサイン・ボルトの出身国としても有名だ。2017年に陸上競技から引退したが、ボルトが残した記録を破る者はまだ現れていない。2008年の北京五輪、2012年のロンドン五輪、2016年のリオデジャネイロ五輪と、出場したすべての大会の100メートルで金メダルを獲得するという偉業を成し遂げた。2009年にベルリンで開催された世界選手権では、前人未到の9秒58という世界記録を樹立している。

ボルトの引退以降、男子100メートル界はやや停滞している。2018年の世界ランキングを見ると、1位のクリスチャン・コールマン(アメリカ)が出した9秒79が最も早いタイムであり、2位のロニー・ベイカー(アメリカ)が9秒87、3位のノア・ライレス(アメリカ)が9秒88と、9秒5台はもちろん、9秒6台を出した選手は一人もいない。9秒7台もコールマンただ一人であり、現役を退いたボルトの韋駄天ぶりが際立っている。

日本人として初めて「10秒の壁」を突破した桐生は1995年12月15日生まれ。若手のトップランナーだ
日本人として初めて「10秒の壁」を突破した桐生は1995年12月15日生まれ。若手のトップランナーだ日本人として初めて「10秒の壁」を突破した桐生は1995年12月15日生まれ。若手のトップランナーだ

世界との差を縮める日本人選手たち

かたや、日本男子は世界との差を縮めつつある。十分に9秒台を狙える逸材がそろう。

2017年9月には桐生祥秀が日本人として初めて「10秒の壁」を突破してみせた。日本学生陸上競技対校選手権大会で9秒98という日本新記録を打ち立てた。同年には、山縣亮太(やまがた・りょうた)も全日本実業団対抗選手権で10秒00を記録するなど、9秒台に肉薄している。ボルトと同じくジャマイカの血を引くケンブリッジ飛鳥も2017年の日本選手権で10秒08という自己ベストを記録。同大会では、ガーナ人の父を持ち、188センチという恵まれた肉体を持つサニブラウン・アブデルハキームが10秒05のタイムで優勝を勝ち取った。

一般的に、瞬発力が問われる短距離の選手のピークは20代前半から半ばにかけてと言われている。ジャスティン・ガトリン(アメリカ)のように35歳で2012年の世界選手権で金メダルを手にした選手もいるが、これはめずらしいケースと言っていいだろう。ボルトが世界記録を出したのも22歳の時だった。2020年の東京五輪開幕時、桐生は24歳、山縣は28歳、ケンブリッジは27歳、サニブラウンは21歳と、記録を狙うには十分なタイミングを迎えている。

続々と9秒台を狙える日本人ランナーが台頭している点は、2020年の東京五輪への注目度を高めている。日本人がオリンピックの100メートル男子でファイナリストになったのは1932年のロサンゼルス五輪に出場した吉岡隆徳(たかよし)のみ。吉岡が6位入賞を果たして以降、実に88年ぶりに日本人選手が決勝へ進出する可能性は決して低くない。

一方、日本女子の注目選手はやはり福島千里(ちさと)だろう。100メートルは11秒21、200メートルは22秒88と、2種目で日本記録を保持。オリンピックには北京五輪から3大会連続で出場しており、経験値も高い。1991年生まれで11秒43の自己ベストを持つ市川華菜(かな)や、同じく1991年生まれで11秒50の自己ベストを持つ世古和(せこ・のどか)にも期待が寄せられている。

女子100メートルの世界記録はフローレンス・ジョイナー(アメリカ)が1988年に出した10秒49。2016年のリオデジャネイロ五輪金メダリストのエレイン・トンプソン(ジャマイカ)が出した決勝のタイムは10秒71であり、日本女子にとっては、「11秒の壁」を超えることが東京五輪で活躍するための必須条件と言える。

福島は100メートルと200メートルで日本記録を保持しており、両種目でのオリンピック出場が有望視されている
福島は100メートルと200メートルで日本記録を保持しており、両種目でのオリンピック出場が有望視されている福島は100メートルと200メートルで日本記録を保持しており、両種目でのオリンピック出場が有望視されている

100メートルを走れるのは男女ともに最大3名まで

東京五輪のトラック種目は7月31日(金)〜8月8日(土)にかけて、オリンピックスタジアム(新国立競技場)のトラックで行われる。陸上100メートルの詳細な開催日程は調整中だ。

来たる東京五輪に出場できるのは男女ともに最大3名までとなっている。3枠を手にするためにはオリンピック出場選考会となるレースで記録を残さなくてはならない。

選考レースとなるのは、2019年6月に行われる第103回日本陸上競技選手権大会、全国13都市で開催される2019日本グランプリシリーズ、5月に実施予定のゴールデングランプリ陸上2019」、そして9月から10月にかけてドーハで開催される第17回世界陸上競技選手権大会の4つ。これらの大会でで日本陸上連盟が定めた選考基準を満たした選手に出場権が与えられる予定だ。

前述したとおり、日本男子のレベルは拮抗しており、誰が代表に選ばれてもおかしくはない。それだけ日本勢の走りは底上げされている。切磋琢磨を通してさらにスピードを上げた日本人選手が表彰台に上がれば、日本陸上界の歴史は間違いなく塗り替えられる。

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