野中生萌:ボルダリングW杯女王は「楽しむ心」を武器に「東京五輪で金メダル」へ

競技普及のため一般向けのクライミング大会も企画

2018年に悲願のクライミング・ワールドカップ(以下W杯)のボルダリング種目で年間女王に輝いた野中生萌(みほう)は、東京五輪の新種目スポーツクライミングにおけるメダル候補の筆頭だ。東京育ちでファッションへの感度も高い若きヒロインは、誰よりも強い「クライミングを楽しむ心」を持っている。

クライミングとの出合いは9歳の時。16歳だった2013年に初めて日本代表となった
クライミングとの出合いは9歳の時。16歳だった2013年に初めて日本代表となったクライミングとの出合いは9歳の時。16歳だった2013年に初めて日本代表となった

女性の活躍を期す東京育ちの「オシャレ番長」

野中生萌(みほう)は、2020年の東京五輪で正式採用されることが決まったスポーツクライミングのメダル候補として有力視される一人だ。少し腕を上げただけでも盛り上がる上腕二頭筋を使い、壁に取りつけられた突起物(ホールド)を駆使して壁をよじ登っていく姿には、男子選手も顔負けなダイナミックさが感じられる。

1997年5月21日に生まれ、東京都の文京区と豊島区で育った。クライミングとの出合いは9歳の時。登山が趣味の父親とともに山登りのトレーニングの一環として、クライミングジムに行ったことがきっかけだった。3人姉妹の末っ子で、2人の姉に負けじと練習に励んだことで、クライマーとしての才能が開花していく。

好きな言葉は「いまに見てろと笑ってやれ」。底抜けに明るいポジティブな性格で、ファッションにも敏感だ。髪の色は気分で頻繁に変え、ウェアは「ダサいと気分が下がるから」と気を使う。確かな実績と「クライミング界のオシャレ番長」という若者受けしやすいキャラクターから、メディアに取り上げられる機会は多い。

アスリートとして成果を残す一方で、競技以外のクライミング活動にも熱心で、練習や試合の合間を縫ってはファンのための大会やクライミングイベントを開催している。なかでも特に力を入れているのが、女子限定のクライミング大会「ROCK QUEENS」と、男女混合の3人チームで外岩に挑む「RED BULL ASURA」だ。いずれも野中のアイデアから生まれた。

オリンピックでの採用が決まったことも含め、スポーツクライミングの競技化が急速に進むなかで、野中は誰よりも「スポーツクライミングを楽しむこと」を大事にしている。それが強さの秘訣であり、彼女なりのスポーツクライミングへの愛情表現なのだろう。


「スポーツクライミングを楽しむこと」を重視し、「ダサいと気分が下がるから」とウェアにも気を配る
「スポーツクライミングを楽しむこと」を重視し、「ダサいと気分が下がるから」とウェアにも気を配る「スポーツクライミングを楽しむこと」を重視し、「ダサいと気分が下がるから」とウェアにも気を配る

クラウドファンディングで専用の壁を建設

2020年の東京五輪で実施されるスポーツクライミングは、制限時間内に到達した高さを競う「リード」、速さを争う「スピード」、ロープを使わずに壁を登りきった本数と効率で勝負する「ボルダリング」が行われ、3種目の合計ポイントで順位が決まる。

これまでボルダリングをメインに活動してきた野中は、東京五輪に向けてリードとスピードの強化を進めている。2018年6月に岩手県で行われた第1回コンバインド・ジャパンカップはオリンピックと同じ3種複合だった。野中はこの大会でボルダリングとスピードは2位につけたものの、成長途中にあるリードでの5位が響き、総合4位と表彰台には立てなかった。ボルダリングとスピードの成績は安定しているだけに、表彰台入りを確実に達成するための課題は明白だ。

スピードに関しては、2018年12月時点で日本女子最速の8秒57のタイムを持っているが、さらなる強化を図るべく、2018年12月に自身専用のスピード壁を豊島区の立教大学池袋キャンパス内に建設した。これまで国内にはスピードの練習環境がなかなか整っておらず、練習時間を確保することが難しかった。そこで、豊島区にある立教大との話し合いのもと、野中の自宅から自転車で15分ほどの距離にスピード壁を建設することになった。

建設にあたっては、クラウドファンディングで資金を募った。1カ月間で目標額の250万円を大きく上回る472万1700円を集め、さらには野中の個人負担で壁の建設費を捻出している。当面の間は一般や学生に開放することはなく、彼女専用のスピード壁として使用する。こうした周囲のサポートに感謝しながら、2020年に向けてトレーニングの熱は一層増している。

好きな言葉は「いまに見てろと笑ってやれ」。前向きな性格で結果を残し続けてきた
好きな言葉は「いまに見てろと笑ってやれ」。前向きな性格で結果を残し続けてきた好きな言葉は「いまに見てろと笑ってやれ」。前向きな性格で結果を残し続けてきた

日本代表入りから5年で悲願の年間王者に

16歳だった2013年に初めて日本代表となった。翌2014年にはクライミングW杯第6戦のフランス・ラヴァル大会のボルダリングで2位となり初めて表彰台に上った。その後もボルダリングを主戦場にめきめきと力をつけ、2015年にはW杯の同種目年間ランキングで3位にまで上り詰める。2016年にはインドでW杯初優勝を果たし、最終戦のドイツ・ミュンヘン大会も制して世界ランク2位を獲得。その直後の世界選手権パリ2016でも銀メダルと、着実に成長を続けてきた。

しかし、年間優勝を視野に捉えて臨んだ2017年は、全7大会中2大会で準決勝敗退を味わうなど苦杯をなめる。結果、年間ランクは4位に終わった。

だからこそ、2018年に念願のW杯年間総合優勝を成し遂げた瞬間は、彼女にとって格別の喜びだった。2018年は、開幕戦のスイス・マイリンゲン大会を制して以降、すべて2位に終わっている。安定した成績でポイントを積み重ねたとも言えるが、紙一重の差でタイトルを逃し続け、歯がゆさも募った。

最終戦のドイツ・ミュンヘン大会で迎えた、年間優勝まであと一登の場面。総合ポイントで2位につける野口啓代(あきよ)は、野中よりも前に難なく完登していた。大きな重圧がかかるなか、野中は最後の課題を一撃でクリアしてみせた。年間を通して結果を出し続けたことで培った自信と、局面で見せた勝負強さは、大きな収穫となったはずだ。

2018年にはスポーツクライミングの代表として東京五輪関連のイベントにも参加している
2018年にはスポーツクライミングの代表として東京五輪関連のイベントにも参加している2018年にはスポーツクライミングの代表として東京五輪関連のイベントにも参加している

五輪代表2枠を巡り野口や伊藤ふたばらと争う

東京五輪の出場枠は、各国男女最大で2名ずつ。もちろん野中は日本女子代表の筆頭候補であるが、油断はできない。

2018年のW杯年間優勝争いを最後の最後まで繰り広げたベテランの野口は、2018年のW杯7大会のうち3大会で優勝し、残る4大会で3位に入っている。最終的な年間ポイントは野中が500ポイント、野口が495ポイントとわずか5ポイント差だった。3種目複合が初めて行われた同年9月の世界選手権では、野中が5位、野口が4位と上回られている。さらに、2002年生まれの伊藤ふたばも2017年のボルダリング・ジャパンカップで史上最年少優勝を果たすなど成長著しく、代表争いは今後さらに白熱していくと予想される。

また、メダルを争う他国のライバルには、2018年のボルダリングW杯の年間3位に入ったファニー・ジベール(フランス)、2017年の年間女王ショウナ・コクシー(イギリス)、W杯第7戦で優勝を飾ったヤンヤ・ガンブレット(スロベニア)などの名が挙げられる。いずれも2018年の成績では野中と野口に及ばなかったものの、故障の影響などもあったために、今後の巻き返しは十分に予想できる。

東京五輪があと1年に迫った2019年に最も結果が求められる大会は、8月に東京都八王子市で開催される世界選手権だ。ここで上位7選手に入れば、東京五輪への出場権を得ることができる。東京五輪の前哨戦とも言えるビッグイベントで、開催国の日本勢にかかる期待は相当なものとなるはずだ。しかし「クライミングを楽しむ心」を持つ野中生萌なら、そんなプレッシャーさえも楽しみながら、「東京五輪で金メダル」という大きな頂へと突き進んでいくのだろう。

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