「フルーレ」は、細く、よくしなる剣をいかに使いこなすかが勝敗を分ける。日本勢では太田雄貴氏が北京五輪で銀メダリストに

攻撃→防御→反撃→再反撃といった技の応酬が見どころ
中世ヨーロッパで発展したフェンシングは、第1回大会からオリンピックの競技に採用されている
中世ヨーロッパで発展したフェンシングは、第1回大会からオリンピックの競技に採用されている中世ヨーロッパで発展したフェンシングは、第1回大会からオリンピックの競技に採用されている

「Fencing(フェンシング)」の「Fence」は、英語で「塀」や「囲い」を意味する言葉だ。中世ヨーロッパで「身を守る」「名誉を守る」ことを目的とする剣技として発展した。18世紀末ごろに金網のマスクが開発されると、スポーツとして楽しまれるようになった。剣と防具で行われるシンプルなフェンシングのなかでも、基本種目と言われる「フルーレ」にフォーカスを当てる。

「フルーレ」にはフェンシングの基本が凝縮されている

オリンピックにおけるフェンシングの歴史は長い。1896年に行われた近代オリンピック第1回目のアテネ五輪ではすでに男子種目が正式採用されている。競技としてのフェンシングには「フルーレ」「エペ」「サーブル」の3種目が存在。剣の形や優先権の有無、得点となる有効面などが異なる。

フェンシングの基本が凝縮されていると言われているのが「フルーレ」だ。フルーレの剣は重量500グラム以下と軽い。長さは全長110センチ以下。細くて、よくしなる剣をいかに使いこなすかが勝敗を分ける。フルーレで有効となるのは剣を射抜くように差し込む「突き」のみ。ただし、フルーレの有効面は背中を含む胴体となっているため、剣先の弾力性を生かした背中への攻撃も腕の見せどころと言える。両腕は有効面ではない。

サーブルと同様、フルーレには「優先権」が存在する。先に腕を伸ばし剣先を相手に向けた選手に優先権が発生し、攻撃を仕掛けられる。相手が自分の剣でその剣先を逸らせたり、間合いを読んで逃げ切ったりすると、優先権は消滅。すると、逆に剣先を向けられていた相手に優先権が移り、攻守の場面が切り替わる。攻撃→防御→反撃→再反撃といったスピード感あふれる技の応酬がフルーレの大きな見どころとなっている。

フルーレは背中も有効面。剣先の弾力性を生かした背中への攻撃も腕の見せどころとなる
フルーレは背中も有効面。剣先の弾力性を生かした背中への攻撃も腕の見せどころとなるフルーレは背中も有効面。剣先の弾力性を生かした背中への攻撃も腕の見せどころとなる

個人戦は3分×3セット、15ポイント先取で勝利

エペやサーブルと同じく、フルーレも男女ともに個人戦と団体戦が行われる。

フルーレの個人戦は3分×3セットの9分間で行われる。15ポイントを先取した選手の勝利となる。9分間でどちらも15ポイントを取っていない場合は、ポイント数が多い選手が勝者となる。同点の場合は延長戦が行われ、1分間で1ポイントを先取した選手の勝利。延長戦でも決着がつかない場合は、抽選によって優先権がある選手に軍配が上がる。

団体戦は1チーム4名のうち3名による総当たり戦で、9対戦が行われる。1対戦は3分間。どちらかが先に5ポイントを取った場合、あるいは3分間が終わった時点で次の対戦に移る。計9対戦で45ポイントを先取したチーム、または9試合までの得点の多いチームが勝利となる。

フルーレを含むフェンシングでは、主審とともに、電気審判機が判定を手助けする。相手の有効面に剣で触れると通電してブザーが鳴り、有効な技を決めた選手のマスク上部やピストと呼ばれる試合用コートの色ランプが点灯し、観客は得点が入ったことがわかる。

ロンドン五輪の女子フルーレではイタリア勢が活躍。個人では表彰台を独占し、団体でも金メダルを獲得した
ロンドン五輪の女子フルーレではイタリア勢が活躍。個人では表彰台を独占し、団体でも金メダルを獲得したロンドン五輪の女子フルーレではイタリア勢が活躍。個人では表彰台を独占し、団体でも金メダルを獲得した

中世ヨーロッパに栄えたイタリアとフランスが強い

フェンシングはヨーロッパ中世に発達した剣技だ。そのため、オリンピックにおけるフルーレでもヨーロッパ勢が上位を占めてきた。

男子フルーレ個人では、1896年のアテネ五輪から2016年のリオデジャネイロ五輪までで、24大会でヨーロッパ勢が金メダルを獲得している。特に中世ヨーロッパに栄えたイタリアとフランスが強い。イタリア人ではネド・ナジが1912年のストックホルム五輪と1920年のアントワープ五輪で2連覇を達成。フランス人ではクリスチャン・ドリオラが1952年のヘルシンキ五輪から2大会連続で金メダルを獲得している。

男子イタリア勢はフルーレ団体でも強さを発揮してきた。1984年ロサンゼルス五輪、2004年アテネ五輪、2012年ロンドン五輪で優勝を果たしている。2016年のリオデジャネイロ五輪では、フルーレ個人でイタリア人のダニエレ・ガロッツォが表彰台の中央で歓喜を味わった。

女子フルーレでもイタリア勢が活躍を見せてきた。近年ではバレンチナ・ベッツァーリが2000年シドニー五輪から3連覇。2012年ロンドン五輪ではエリーザ・ディ・フランチェスカが金、アリアンア・エリッジョが銀、バレンチナ・ベッツァーリが銅と、イタリア勢が表彰台を独占している。

2008年、太田雄貴氏(左)は日本フェンシング界史上初のオリンピックメダルをもたらした
2008年、太田雄貴氏(左)は日本フェンシング界史上初のオリンピックメダルをもたらした2008年、太田雄貴氏(左)は日本フェンシング界史上初のオリンピックメダルをもたらした

日本の男子フルーレではベテランの藤野大樹や松山恭助に注目

日本勢の男子フルーレを語る時、太田雄貴氏の足跡は無視できない。現在、日本フェンシング協会会長を務める太田氏は、2008の年北京五輪で銀メダルを獲得。日本フェンシング界史上初のオリンピックメダルをもたらした。2012年のロンドン五輪では男子フルーレ団体の銀メダル獲得に貢献している。

2020年の東京五輪に向けては、2018年12月に行われた全日本フェンシング選手権の男子フルーレで4度目の優勝を飾った藤野大樹(だいき)や、フェンシング日本代表のキャプテンを務める松山恭助の存在に注目が集まる。藤野は1987年5月28日生まれのベテラン。33歳で迎える東京五輪がおそらく自身最後のオリンピックとなるはずで、「選手としてのラストチャンスを、しっかりと戦い抜く」と抱負を述べている。

女子フルーレには宮脇花綸(かりん)、菊池小巻、上野優佳、辻すみれ、西岡詩穂、柳岡はるか、久良知美帆(くらち・みほ)、伊藤真希といった好選手がそろう。若手では、2018年のワールドカップアルジェリア大会の女子フルーレで銀メダルを手にし、2018年12月に行われた全日本フェンシング選手権の女子フルーレで2連覇を果たした東晟良(あずま・せいら)、2016年全日本フェンシング選手権大会の女子フルーレで準優勝を経験している東莉央(りお)の東姉妹の躍進にも注目が集まる。姉の莉央は1998年7月27日生まれ、妹の晟良は1999年8月20日生まれと、将来性豊かな姉妹アスリートだ。

東京五輪のフェンシングの開催期間は、2020年7月25日(土)から8月2日(日)の9日間。武蔵野の森総合スポーツプラザや東京スタジアム、幕張メッセ Bホールで行われる。

宮脇花綸(手前)は日本女子フルーレのエース格。2016年のジュニアワールドカップを制している
宮脇花綸(手前)は日本女子フルーレのエース格。2016年のジュニアワールドカップを制している宮脇花綸(手前)は日本女子フルーレのエース格。2016年のジュニアワールドカップを制している

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