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プロ野球に“AI解説者”が登場、体操界では3D技術の導入で判定に革命【スポーツのデジタル化】

テニスやサッカーでは誤審を防ぎ、アメフトでは選手のケガを予防

文: オリンピックチャンネル編集部 ·

近年、マルチスポーツにおいてAI(人工知能)が導入されるようになった。新たな技術は緻密なデータ分析、公平な判定、メディアの動画制作など多方面で活用されている。AI技術の進歩に伴って、スポーツそのものやスポーツ観戦のクオリティが高まっている。

スポーツ界ではAIを含む最新技術が積極導入されている。技術革新はプレーの質の向上や判定の正確性につながっている

プレー予測が選手の故障防止にも

AI(人工知能)がスポーツ界で果たす役割はさまざまあり、一つはデータ分析に基づく戦況予測が挙げられる。

「WARP」はサッカー戦況予測AIを搭載した世界初のAIサッカーシミュレーションメディアで、Sports AI社が2017年に立ち上げた。「WARP」はJリーグの公認データであるスタッツデータ、トラッキングデータに加え、サッカー専門媒体が提供する選手情報を反映した約20体のAIを使って10分間の試合を100回実施し、最も確率の高い結果を提示する。これはサッカーくじ「toto」の予想に用いられるなど主にサッカー観戦者向けの技術で、2018年のFIFAワールドカップでは、日本vsセネガル戦の2-2の引き分けという予想を見事に的中させ、注目を集めた。

アメリカの「アマゾンウェブサービス」(AWS)も、プレー予測の面でさまざまな競技に携わっている。機械学習サービス「Amazon SageMaker」を用い、F1では、レース展開の予測や運転技術の評価をテレビ観戦者向けに提供。ラップタイムやタイヤの性能劣化、天気などのデータを反映することにより、たとえば「追い越しを成功させる確率」などが予測できる。タイヤの温度やオーバーヒートが起こる確率までも随時提供されるという。これらのデータにより、レース中の車がどのような状況であるのかがリアルタイムで認知できる。

アメリカンフットボールリーグのNFLは、「デジタルアスリート」という名称のAIをASWと共同で開発している。これは、アメフトにおいて大きな問題となっている、選手の脳震とうを防ぐことが大きな目的だ。「Amazon SageMaker」や画像・動画認識AIサービス「Amazon Rekognition」などの機能を使って選手同士が接触した際の位置関係や速度、加速度、姿勢などを分析し、ケガをしにくい動作を選手たちに促していく。上記のシミュレーション型AI技術は、アスリートや監督、コーチがデータ解析や戦術解析を行う場合にも、もちろん有効的だ。

テニスではカメラに搭載された「ホークアイ」がボールの軌道を瞬時に解析。この技術が判定にも活用されている

判定のデジタル化で誤審を防ぐ

スポーツにおいて最もやきもきする瞬間である、“誤審”という長年の課題もAI技術の導入によって大きく解消され始めている。2011年にソニーが買収したホークアイ社の技術では、複数のカメラからボールの軌道を瞬時に解析することができる。この技術はテニスやバレーボールといった球技でのボールのイン・アウト、サッカーにおけるゴール判定などに用いられている。人間のジャッジではまかないきれない部分をAIが補う形だ。

たとえばプロテニスの大会では、審判の判定に納得できない場合、選手は1セットに3回まで「チャレンジ」=「ホークアイ」を用いた判定を要求することができる。なお、「ホークアイ」はプロスポーツ向けに開発されているが、テニスではカメラ2台を搭載した持ち運び可能の機器「In/Out」が2017年よりアマチュア向けに販売されており、一般テニスプレーヤーにとってもなじみのあるものとなりつつある。

サッカーではゴール以外の場面でも誤審を防ぐために、「ビデオ・アシスタント・レフェリー」(VAR)の導入が進んでいる。たとえば誤審が発生することの多い「オフサイド」について、主審や副審の判定が微妙だった際には「The virtual offside line」という技術を活用して、選手の位置によって変わるオフサイドラインを明確にしたうえで判定を行う。VARを導入する際にはピッチ上の審判員とは別にVAR用審判員が手配され、見逃されたファウルなどを映像で確認し、主審の判定を補助する。現在のVARはあくまで人間の審判員が機械を使って判断しているが、実験的にAIが導入されはじめている例もあるという。

採点競技のデジタル革命も進んでいる。富士通はAIによる自動採点支援システムの開発を進めている。3Dレーザーセンサーによって選手の動きを3次元で把握し、データを解析して演技内容を数値化するというものだ。これまで採点競技は審査員の目視が基本とされてきたが、この自動採点支援システムが普及すれば、体操に限らずフィギュアスケートやアーティスティックスイミングなど、他の採点競技も判定の公平性が高まっていくと考えられている。

サッカーでは誤審を防ぐために、「ビデオ・アシスタント・レフェリー」(VAR)の導入が主流となっており、ここにも最新のデジタル技術が反映されている

AIによってメディアも変化、新たな観戦スタイルへ

AIの進歩によりスポーツを報道するメディアにも変化が生まれている。

NHKは2017年、データテクノロジーを用いてスポーツ解説をするシステム「ZUNO」を開発した。ZUNOは、2004年から記録されている打席データをAIに学習させて配球などを予測。“AI解説者”として、生身の解説者では見つけることのできなかった選手の傾向を明らかにした。

試合のハイライト動画の制作にもAIが関わっている。以前は人の目で見て注目場面を切り取り、つなぎ合わせて作るのが当たり前だったが、IBM社によるAIの「Watson」はファンの歓声や選手の動きなどから観客の興奮度を分析し、ハイライト動画の作成に活用されている。また、特定の会場以外で行われるロードレースやクロスカントリー、マラソンや競歩などでは、カメラ撮影によるトラッキングデータの抽出が難しいため、自動追尾型のドローンが用いられるようになった。

技術の発達とともに、スポーツは目覚ましい進化を遂げている。技術革命に伴い、アスリートたちは柔軟に変化に対応し、観戦者も新たな楽しみ方を見いだしていく必要がある。