「ポセイドンジャパン」は東京オリンピックを通し水球界の発展を狙う

男女ともに、現在の大学生が東京五輪の主力に

水球日本代表の「ポセイドンジャパン」は、紛れもないチャレンジャーだ。海の神の名を冠したチームにとって、2020年の東京五輪は、体格に勝るヨーロッパ強豪国への挑戦の舞台であり、そして、国内ではマイナーとされる「水球」というスポーツの認知を高め、発展への期待を未来の競技者へとつなぐための挑戦の場となる。

水球は激しさが魅力の一つのスポーツと言える
水球は激しさが魅力の一つのスポーツと言える水球は激しさが魅力の一つのスポーツと言える

水球が「水上の格闘技」と呼ばれる理由

水球は、水深2メートル以上、縦30メートル×横20メートルのプールを舞台に行われる水泳種目唯一の球技だ。ゴールキーパーを含めて選手は1チーム7名。コートでは2チーム計14名の選手が1つのボールを奪い合い、相手陣地のゴールへと投げ込むことで得点となる。試合は1ピリオド8分間の4ピリオド制で行われる。

ゴールキーパー以外の選手は両手でボールを持ってはならない。フィールドの選手は立ち泳ぎをしながら片手でボールをコントロールする。踏み込む場もない状況から信じられないほどの高速シュートと多彩なパスワークを繰り出すべく、洗練された戦術性がこの競技の面白みだ。

男子の水球は1900年のパリ五輪から採用された種目であり、歴史が深い。一方で、女子は2000年のシドニー五輪まで正式種目化されていなかった。水球は「水上の格闘技」と呼ばれるほど選手同士の当たりが強い、パワー勝負のスポーツだからだ。

もともと水球は19世紀のイギリスで発祥し、そのあまりの荒々しさにルールが整備されたことで始まったスポーツだ。ボールを持った選手へのラフプレーはある程度許容されており、水面下での激しい駆け引きがゲームのあらゆる局面で見られる。

当然ながらファウルはある。むしろ、他競技に比べて圧倒的にファウルが多く、それがエキサイティングな試合内容を生み出す特異な競技だと言える。ファウルを受けた側にフリースローが与えられるだけの軽微な「オーディナリーファウル」のほか、「パーソナルファウル」では攻撃権が移るだけでなく、「退水ゾーン」での20秒間の待機を命じられ、ファウルを犯したチームは一人少ない状態でプレイが開始される。そうしたファウルが計32分の試合の間に数百回にも及び、予断を許さぬゲーム展開を生み出している。

圧倒的なヨーロッパ強豪国との差に挑む

東京五輪において水球競技は「東京辰巳国際水泳場」が戦いの舞台となる。7月25日(土)に女子、翌26日(日)に男子が始まり、8月9日(日)まで、連日にわたって男女の競技が交互に開催される予定だ。

水球では、日本の「ポセイドンジャパン」は男女ともにチャレンジャーの立ち位置にある。イギリスを発祥とする水球の強豪国はヨーロッパ諸国であり、男子の優勝候補筆頭は水球を「国技」とするハンガリーだ。国内にプロリーグを持ち、オリンピックにおけるこれまでの金メダル数は9個を数える。クロアチアやセルビアなどのスラブ諸国、そしてイタリアも過去のオリンピックや世界選手権における優勝国の常連だ。

女子では、正式種目となった2000年のシドニー五輪で自国優勝を果たしたオーストラリアをはじめ、直近のオリンピック2大会で2連覇を果たしたアメリカ、そしてオランダ、イタリアが優勝候補に並ぶ。

いずれの国も、競技選手の体格に優れている点が共通している。水球において、ほとんどの局面で胸から下は水中にあり、陸上ほどの自在な動きはできない。水上の長い手はパスコースの選択肢を広げ、相手のパスコースをつぶすうえでも有利だ。何より、相手に飛び込み、はねのけるフィジカルの強さが大きな価値を持つ。そのため、体格に劣るアジア諸国は不利な状況が続いてきた。

荒井陸は168センチと小柄ながら、スピードを武器に世界と渡り合う。「小さな巨人」の異名を持つ
荒井陸は168センチと小柄ながら、スピードを武器に世界と渡り合う。「小さな巨人」の異名を持つ荒井陸は168センチと小柄ながら、スピードを武器に世界と渡り合う。「小さな巨人」の異名を持つ

男子日本は「パスラインディフェンス」が武器

しかし、アジア勢にもわずかに光明が差し込み始めている。

水球男子の日本代表は2016年のリオデジャネイロ五輪で、1984年のロサンゼルス五輪以来32年ぶりとなるオリンピック出場を果たしている。長らく低迷が続いた理由は、日本では水球の認知が低く、選手の活動環境が整わない状況が続いたためだ。しかし、水球の発展を願う競技関係者の長年の努力が実り、近年ではクラブチームへの企業の出資や、社員として働きながら代表選手として活躍できる流れも生まれ、競技レベルの向上が進んでいる。

一方、強豪国との体格差を埋める戦術の工夫もなされている。2016年のリオ五輪では、日本のスタミナと泳力、チームワークを生かした「パスラインディフェンス」を実践。体を張って相手のシュートコースをつぶす定番のディフェンスでは、体格に勝るヨーロッパの選手に押し込まれてしまう。それなら、相手にパスが通る前にコースを読んでカットしてしまえばいい。そこから相手に守備の暇をも与えぬ速攻を展開する、日本独自の戦術が生まれた。日本はこの戦術で、オリンピック出場を果たすだけでなく、世界トップレベルのギリシャに1点差まで詰め寄り、確かな手ごたえをつかんだ。

2020年の東京五輪では、開催国枠によって日本の出場は決定しているが、自力出場も可能だった実力を備えている。最終的に13名に絞られる代表選手のうち、前回大会にも出場した福島丈貴、飯田純士、荒井陸(あつし)、足立聖弥の4人を除くメンバーは、大学生を中心とした若手選手を新たに起用。東京五輪までに日本ならではの戦術を深めて悲願のメダル奪取に挑む。

秀明大の坂上千明(右)は女子代表の注目株。抜群のディフェンス力を誇る
秀明大の坂上千明(右)は女子代表の注目株。抜群のディフェンス力を誇る秀明大の坂上千明(右)は女子代表の注目株。抜群のディフェンス力を誇る

最強大学生を主体とした女子日本代表の活躍

一方、女子代表は、開催国枠によって東京五輪が初めてのオリンピック出場となる。代表選手の中核をなすのは、2018年9月に日本学生選手権水泳競技大会で4連覇を果たした秀明大学女子水球部のメンバーたちだ。水球専用プールをはじめ、国内屈指の練習環境を備えた同大学には有望な選手が集まっている。野呂美咲季、坂上千明(さかのうえ・ちあき)、鈴木琴莉(ことり)、稲葉朱里(あかり)をはじめとする同大学の選手が代表チームでも躍動。同大学以外からも、数多くの代表経験を持つゴールキーパー青木美友(みゆう)や、坂上と同じくディフェンスの要となる徳用万里奈(とくもと・まりな)など、魅力的な大学生プレーヤーが選出されている。

注目選手は国内最強クラスのディフェンス力を誇る坂上千明だ。水球では「巻き足」と言われる立ち泳ぎで自身の姿勢をキープするのが基本だが、坂上は泳力の高さを生かした自在な動きで相手のパスコースをすばやくつぶし、自らのパスコースを切り開いていく。

すでに述べたとおり、東京五輪に挑む「ポセイドンジャパン」は、男女ともに大学生のメンバーが多い。2020年には、その多くは大学を卒業し、企業の協力のもとに活動するだろう。かつては代表の練習に専念するため、卒業後は無職で活動する選手も多くいたが、水球の発展を願う先人たちの改善活動によって状況は大きく好転している。

もっとも、強豪国のような競技環境の実現はまだまだ遠い。「マイナー」と言われながらも地道に競技レベル向上に努め、今の人気を勝ち得たカーリングやラグビーのように、水球の発展には国民の期待に火をつける実績が必要だ。多くの先人たちの意思を引き継ぎ、「ポセイドンジャパン」は東京五輪の舞台に飛び出す。

徳用万里奈(左)は早稲田大に在籍。「しつこいディフェンス」が自身の持ち味だと話す
徳用万里奈(左)は早稲田大に在籍。「しつこいディフェンス」が自身の持ち味だと話す徳用万里奈(左)は早稲田大に在籍。「しつこいディフェンス」が自身の持ち味だと話す

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