一山麻緒:2020年のラストスパートで東京五輪のマラソン日本代表に。中学時代は陸上をやめようか悩んだことも【アスリートの原点】

2時間20分29秒は日本女子選手の国内最高記録

前田穂南(ほなみ)と鈴木亜由子に次いで、東京五輪の女子マラソン代表の最後の枠に滑り込んだのが一山麻緒(いちやま・まお)だ。日本陸上連盟の瀬古利彦氏が「世界に通じるタレントを発掘できた」と太鼓判を押す"ラストシンデレラ"は、「かけっこでどうしても一番がとりたくて」という純粋な思いを原動力に駆け抜けていく。

中学2年の時、自主練中の偶然の出会いがランナー人生に大きく影響している
中学2年の時、自主練中の偶然の出会いがランナー人生に大きく影響している中学2年の時、自主練中の偶然の出会いがランナー人生に大きく影響している

小学6年生の時は市内の100メートル走で5位の成績

東京五輪の女子マラソン日本代表の最後のチケットをもぎ取った一山麻緒(いちやま・まお)は、1997年5月29日、鹿児島県出水市(いずみし)に生まれた。

物心ついた時から、走るのが好きだった。本腰を入れたのは「小学校の運動会のかけっこでどうしても一番がとりたくて」。小学5年生になると、リレーの選手になって誰よりも早く走りたいという思いから、地元の陸上スポーツ少年団に加入した。

6年生の時に全国小学生陸上競技交流大会の鹿児島県予選会に出場する。同学年女子の100メートル走では14秒78で5位という成績に終わった。同大会の5年生女子の100メートル走1位が14秒69であることから、一山少女のタイムは決して目を見張るものではなかったが、同年の市民駅伝大会では1.66キロを6分22秒で快走。区間記録を出しチームの大会記録更新に貢献した。

地元の出水市中学校に進学すると、陸上部に入部した。短距離から長距離に転向したものの、思うように結果がついてこない。負けん気が強いからこそ、停滞する自分が歯がゆかった。一度は「陸上をやめようかな」と思い悩んだこともある。同時に「中学のころから東京五輪に出たいと思っていた」という。

「マラソンで東京五輪に出たい」という思いを胸に、ワコール女子陸上競技部の一員として5000メートルや10000メートルで鍛錬を重ねた
「マラソンで東京五輪に出たい」という思いを胸に、ワコール女子陸上競技部の一員として5000メートルや10000メートルで鍛錬を重ねた「マラソンで東京五輪に出たい」という思いを胸に、ワコール女子陸上競技部の一員として5000メートルや10000メートルで鍛錬を重ねた

高校3年次のインターハイは2種目とも予選敗退

ランナー人生に大きな影響を与える出来事は、偶然の出会いだった。中学2年生の時、市内の陸上施設で早朝に自主練に取り組んでいたところ、「一緒に練習をしないか」と誘われた。声の主は、出水中央高等学校の女子駅伝部で監督を務める黒田安名(やすな)さんだった。

黒田さんと接点を持った一山は出水中央高に進学。本格指導を受け、着実に成長していく。高校3年次には1500メートルと3000メートルで全国高等学校総合体育大会、通称インターハイに出場した。予選敗退に終わったものの、全国の舞台に立った経験は未来につながっていく。

マラソンで東京五輪に出たい──。高校の先輩が在籍するワコール女子陸上競技部のスタッフに情熱をぶつけた。希望が叶い、2016年に同社に入社。マラソンへの転向を見据えながら、5000メートルや10000メートルで鍛錬を重ねた。

マラソン初挑戦は2019年。東京マラソンで女子総合7位に食い込んだ。東京五輪代表を決めるマラソングランドチャンピオンシップ(以下MGC)への出場資格は逃したが、2カ月後のロンドンマラソンの記録で同資格を取得する。迎えた2019年9月のMGCでは6位。東京五輪行きのチケットは手にできなかった。

だが2020年、鮮やかなラストスパートを見せた。1月の奥球磨ロードレース大会の女子ハーフマラソンでは大会新記録の1時間10分25秒で優勝。2月の香川丸亀国際ハーフマラソンは総合5位で1時間8分56秒という日本勢トップのタイムを出した。

そして2020年3月の名古屋ウィメンズマラソンで東京五輪行きを内定させた。2カ月前に松田瑞生が記録した2時間21分47秒を超える2時間20分29秒は日本女子選手の国内最高記録。「かけっこでどうしても一番がとりたくて」走り始めた22歳の新鋭は今、一気に東京五輪のダークホースとして躍り出た。

選手プロフィール

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