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乙黒拓斗:兄とともにオリンピック代表に──筋金入りの「レスリング好き」の父の情熱で成長【アスリートの原点】

兄弟の原点は父特製のレスリング部屋

文: オリンピックチャンネル編集部 ·

2018年、史上最年少の19歳でレスリングの世界選手権を制覇したのが乙黒拓斗だ。男子フリースタイル65キロ級を主戦場とする。2019年12月に全日本選手権で優勝して初のオリンピック行きを決め、74キロ級の兄、圭祐とともに大舞台に挑む。イケメン兄弟との呼び声も高い最強の2人が競技と出合ったのは父の影響だった。

高校時代にはインターハイで史上4人目となる3連覇。階級を上げながらの快挙だった

父による熱血指導でしごかれた小学生時代

乙黒拓斗は1998年12月13日、山梨県の笛吹市(ふえふきし)で生まれた。

父の正也さんは高校時代にレスリング部に所属し、社会人になってからも打ち込んでいた。筋金入りの「レスリング好き」の父のもと、弟の拓斗は2歳上の兄とともに自然と技を掛け合ったりして遊ぶようになった。

兄の圭祐はもともとサッカーに熱中していたが、「あたりに強くなるから」と父はレスリングを半ば強引に勧めた。すると圭祐は初出場のレスリングの大会で見事に2位に入り、メダルをもらって帰ってきた。その姿に憧れた弟の拓斗も、レスリングに集中して取り組むようになった。

8畳の部屋にマットを敷き詰め、父特製のレスリング部屋ができあがった。乙黒兄弟は小学校から帰ってくるとすぐにレスリングシューズに履き替え、父のつくったメニューを毎晩遅くまでこなした。子ども部屋の床にはラダーを貼り、駐車場には懸垂などのためのトレーニング環境をつくるなど、父の熱の入れようはすさまじかった。

父の情熱は息子たちにもしっかりと伝わった。拓斗はレスリングをやめたいと思ったことなど一度もなかったと振り返ったことがある。それ以上に強くなっていく楽しさがあったという。この積み重ねが「練習の鬼」と呼ばれる現在の姿につながったのだろう。そして小学5年生のころには父がOBに頼み込み、山梨学院大学レスリング部での練習に参加する機会を得られた。

2018年12月の全日本選手権では男子フリースタイルの65キロ級を制覇(右端)。2019年の同大会でも優勝を果たしている

刺激を受けたJOCアカデミーでの日々

石和南小卒業後は、先に上京していた兄に続き、拓斗も日本オリンピック委員会によるJOCエリートアカデミーへ入校する。

2人の息子がいなくなった乙黒家は急に静寂に包まれ、両親は寂しさを感じたこともあったが、親の心配をよそに拓斗はどんどんと成長していった。寮生活では卓球の平野美宇などを含む同世代のトップアスリートたちと寝食をともにし、食事内容や生活のコントロールの仕方などさまざまなことを学べたという。本人いわく「とにかく必死だった」6年間。一日中レスリングのことを考え、競技と真摯に向き合う姿勢が養われていった。

そのかいあって、中学時代には全国中学選抜選手権で3連覇を達した。中学3年次からはJOCジュニアオリンピックのカデットの部を3連覇、高校時代にはインターハイ(全国高等学校総合体育大会)で史上4人目となる3連覇を達成している。全国高校選抜大会でも2連覇を収め、天才少年として一気に注目を集めるようになった。2017年に山梨学院大学に進学して生まれ故郷に戻ると、自分の頭で考える練習によってさらに力をつけ、2018年の、19歳での戴冠という世界選手権史上最年少優勝につながった。

「平成の怪物」「異次元の才能」と、レスリング界での評価はとてつもなく高い。メダルへのプレッシャーもかかるが、おっとりしたマイペースな性格ゆえ重圧はあまり感じていない。女性アイドルグループ乃木坂46の大ファンである一面や、インスタグラムで見せる今どきの若者らしい素顔も魅力だ。

「日本のレスリングは女子だけでなく男子も強いところを見せたい」と話したことがある。乙黒兄弟が2021年の夏、東京でレスリング旋風を巻き起こす。

選手プロフィール

  • 乙黒拓斗(おとぐろ・たくと)
  • 男子レスリング フリースタイル 65キロ級選手
  • 生年月日:1998年12月13日
  • 出身地:山梨県笛吹市
  • 身長/体重:173センチ/65キロ
  • 出身校:石和南小(山梨)→稲付中(東京)→帝京高(東京)
  • 所属:山梨学院大
  • オリンピックの経験:なし 
  • Twitter:乙黒 拓斗(@01096taku)
  • Instagram:Otoguro Takuto 乙黒拓斗(@01096taku)

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