【代表内定物語】素根輝と朝比奈沙羅:柔道女子最重量級の代表は162センチの小柄なヒロインーー「朝比奈さんがいたから強くなれた」

中学時代から名を馳せた素根輝と異色の経歴を持つ朝比奈沙羅
素根輝(左)と朝比奈沙羅(右)は長い間、柔道女子78キロ超級で頂点を争ってきた
素根輝(左)と朝比奈沙羅(右)は長い間、柔道女子78キロ超級で頂点を争ってきた素根輝(左)と朝比奈沙羅(右)は長い間、柔道女子78キロ超級で頂点を争ってきた

19歳にして柔道の東京五輪代表内定第1号となった素根輝(そね・あきら)。彼女の成長を促したのは、ライバルとして立ちはだかった元世界女王、朝比奈沙羅の存在だった。全日本柔道連盟の強化委員会も「同等」と評価するほど実力の拮抗した2人は、東京五輪をめざして熾烈な争いを繰り広げてきた。

素根(右)は身長162センチと重量級にしては小柄だが、約110キロの体格を生かし主導権を握る
素根(右)は身長162センチと重量級にしては小柄だが、約110キロの体格を生かし主導権を握る素根(右)は身長162センチと重量級にしては小柄だが、約110キロの体格を生かし主導権を握る

瞬く間に五輪代表候補に名乗りを上げた素根輝

2019年11月24日、柔道の東京五輪内定第1号が発表された。女子78キロ超級の素根輝(そね・あきら)だ。

素根は中学時代から「最強の女子中学生」と称され、注目を集めてきた。私立強豪校の誘いを受けながらも、地元の公立校である久留米市立南筑高等学校に進学。以降は、体格の似ている兄の勝さんが付き人となって連日練習で組み合った。

素根は身長162センチと重量級の選手にしては小柄だが、約110キロの体格を生かして相手の懐に入り込み、背負い投げも繰り出す。高校2年次に出場した全日本選抜柔道体重別選手権で同大会21年ぶりの高校生女王になると、翌2018年には柔道全日本選手権で初出場初優勝。瞬く間に東京五輪代表候補に名乗りを上げた。

一方、素根より4歳上の朝比奈沙羅は、異色の柔道家として知られる。父は麻酔科の医師にして大学教授で、母は歯科医師。医師の両親の間に生まれ、中高一貫の進学校、渋谷教育学園渋谷中学高等学校で勉学に励んだ。

大学進学時、第一志望としていた医学部に落ちてしまった朝比奈だが、東海大学体育学部に進学して柔道をしながら勉強を続け、大学3年次から実業団のパーク24柔道部に所属して文武両道を貫き、2019年秋、独協医科大学医学部にAO入試で合格した。英語も堪能で、記者会見に英語で応じたこともある。

けがの影響でリオデジャネイロ五輪出場は逃したものの、朝比奈は2017年は無差別級、2018年は78キロ超級世界柔道選手権で金メダルを獲得している。約130キロの全体重を相手に預ける強烈な払い腰が武器で、東京五輪代表の最有力候補と目されていた。

朝比奈は両親ともに医師。世界柔道選手権で金メダルを獲得する一方、自らも医師になる道を歩んでいる
朝比奈は両親ともに医師。世界柔道選手権で金メダルを獲得する一方、自らも医師になる道を歩んでいる朝比奈は両親ともに医師。世界柔道選手権で金メダルを獲得する一方、自らも医師になる道を歩んでいる

2人の序列が明確に入れ替わった2019年

女子78キロ超級の東京五輪代表争いは、素根と朝比奈の一騎打ちとなっていた。

2人が明確なライバル関係となったのは、2018年の全日本選抜体重別選手権からだ。78キロ超級の決勝で実現した両者の対戦は、11分56秒に及ぶ激闘となった。最後は反則勝ちで素根に軍配が上がった。通算4度目の対戦にして曽根が朝比奈に初めて勝った。

次の両者の対戦は、同2018年4月の全日本選手権準決勝。前日会見では、朝比奈が素根に対し「出た芽は摘む」といった強烈な“口撃”を浴びせた。この時も延長戦までもつれ込む接戦となったが、最後はスタミナで勝る素根が反則勝ち。朝比奈を相手に連勝を飾った。

だが、同年秋の世界選手権代表に選出されたのは朝比奈だった。強化委員会は国際大会での実績を理由に挙げ、素根は混合団体戦の代表に回った。結果的に世界選手権で朝比奈は優勝を成し遂げ、素根も日本の団体金メダルに貢献したが、個人戦での代表権を得られなかったことが、素根の闘志をさらに燃やした。

2人の序列が明確に入れ替わったのは、2019年に入ってからのことだ。素根が再び全日本選抜体重別選手権と全日本女子選手権の2大会で頂点に立ち、世界選手権代表切符を初めて手に入れた。ただ、2人の実力が「同等」であると評価した全日本柔道連盟の強化委員会は、2つの階級に限り複数の選手を代表にすることができる枠を78キロ超級に使い、素根とともに朝比奈も代表に選出した。

2019年4月、全日本女子選手権の準決勝の写真。曽根(左)が延長戦の末に勝利し、その勢いで優勝を決めた
2019年4月、全日本女子選手権の準決勝の写真。曽根(左)が延長戦の末に勝利し、その勢いで優勝を決めた2019年4月、全日本女子選手権の準決勝の写真。曽根(左)が延長戦の末に勝利し、その勢いで優勝を決めた

約3年をかけてライバルを乗り越えた素根が代表内定

東京五輪代表の選考基準は3段階ある。1つ目は「世界選手権優勝者が2019年11月のグランドスラム大阪大会を制し、全柔連強化委員会で出席者の3分の2以上が賛成すれば決定」。つまり、2019年の世界選手権で優勝したほうが、五輪切符に大きく近づく。

ただし、朝比奈が準々決勝で敗れたために、直接対決は実現しなかった。決勝まで勝ち進んだ素根は、ロンドン五輪金メダリストの身長180センチ、イダリス・オルティス(キューバ)を延長戦で下し、初優勝を果たした。一方の朝比奈は、敗者復活戦から銅メダルを獲得して意地を見せたが、連覇を逃した悔しさから涙をこぼした。

2019年11月グランドスラム大阪大会は、素根が優勝すればオリンピック代表がほぼ確実となる状況だった。両者は決勝で当たる組み合わせだったが、世界選手権で負った故障の影響でしっかりと練習を積めなかった朝比奈は、準々決勝で一本負け。素根に足止めをかけることはできなかった。対する素根は順調に勝ち上がると、決勝では再びオルティスを撃破し、初優勝を飾った。試合後の強化委員会では満場一致で曽根が東京五輪代表に内定し、ついに2人の戦いに終止符が打たれた。

素根は会見で朝比奈の存在について問われると、感極まったように上を見上げた。体格で大きく上回る朝比奈に打ち勝つために、組み手や足技、担ぎ技を磨いてきた。約3年をかけて先達であるライバルを乗り越えた素根の「朝比奈さんがいたから強くなれた」という言葉に嘘はない。

一方の朝比奈は当初、2020年を現役生活のラストイヤーとしていたが、オリンピックへの執念は失せておらず、現役続行に含みを持たせた。4年後、パリ五輪出場をかけて火花を散らす2人の姿がまた見られるかもしれない。

選手プロフィール

素根 輝(そね・あきら)

柔道選手 78キロ超級 五段

生年月日:2000年7月9日

出身地:福岡県久留米市

身長/体重:162センチ/110キロ

所属:環太平洋大学1年

オリンピックの経験:なし

インスタグラム:Sone Akira(@akira.sone)

朝比奈沙羅(あさひな・さら)

柔道選手 78キロ超級 五段

生年月日:1996年10月22日

出身地:東京都

身長/体重:175センチ/135キロ

所属:パーク24柔道部

オリンピックの経験:なし

ツイッター:Sarah Asahina (@sarah_pins2)

インスタグラム:朝比奈沙羅 (@sarah_damncool)

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