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向田真優:「ポスト吉田沙保里」の重圧をはねのけたレスリング界の希望|婚約者のコーチとともに東京五輪のメダルを狙う【アスリートの原点】

中1で親元を離れ、レスリングに打ち込む

文: オリンピックチャンネル編集部 ·

同じ三重県出身で、同じ階級。女子レスリング53キロ級の向田真優(むかいだ・まゆ)は「ポスト吉田沙保里」として注目されてきた。時にその重圧に押しつぶされそうになりながら、2019年の世界選手権で銀メダルに輝き、初のオリンピック行きを決めた。中1で親元を離れ、365日練習漬けの日々を送ってきた格闘家の半生に迫る。

5歳のころにレスリングを始めた。世界選手権では2度頂点に立っている

ブラジリアン柔術経験者の父の勧めでレスリングの道へ

向田真優は1997年6月22日、三重県四日市市で生まれた。

幼いころは母と姉の影響で空手少女だったが、そこからレスリングへと転向する過程には、父の影響があったという。父の淳史さんは、全日本ブラジリアン柔術選手権で準優勝を果たしたこともある格闘家。その血を受け継いだ彼女は、5歳のころに父の勧めで四日市ジュニア教室に入り、レスリングに取り組むようになった。

競技を始めるとすぐに才能が開花し、小学2年生で三重県大会を制覇。その後小学校3年生から6年生までは全国少年少女選手権大会で4連覇を経験するなど、同世代における圧倒的な存在に成長する。小学女子の部の年間最優秀選手賞を受けたことで、日本レスリング協会の菅芳松事務局次長の目にとまり、日本オリンピック委員会の強化育成機関であるJOCエリートアカデミーにスカウトされることとなる。

生まれ育った故郷を離れ、わずか12歳で親元を離れることに不安もあったという。だが一方でJOCエリートアカデミーは小学5年生のころから憧れていた場所だった。両親も娘の決断を尊重したことで、中学1年生からは東京での生活が始まった。

もともとストイックで決して手を抜かない性格だったが、上京後はさらに練習に打ち込むようになった。休息日をあえてつくらず、365日トレーニングに励む日々。自らの性格を「頑固」と分析するとおり、一度決めたらやり抜くことが何よりの強みだ。しかし、JOCエリートアカデミーでの最初の年はなかなか結果が出ずに苦しみ、負けるたびに実家に泣きながら電話することもあったという。

それでもやはり裏切らないのは練習だけ。試合中に劣勢に立たされても「これだけ練習してきたんだから勝てる」と思うことで、メンタルを好転させてきた。

同階級の吉田沙保里(中央)は憧れの存在であり、ライバルでもあった。引退した吉田の跡を継ぎ、オリンピックでの栄冠をめざす

JOCエリートアカデミー出身者初の世界選手権女王に

地道な鍛錬が実を結び、2011年から全国中学生選手権と全国中学選抜選手権の52キロ級で2連覇を達成。そして2012年と2013年の世界カデット選手権で頂点に立つなど、その名は一気に広まっていった。

安部学院高等学校2年次の2014年には南京ユースオリンピックに出場して金メダルを獲得。五輪のマークが会場のあらゆるところに飾られている会場を見ると、いやが応でも気分が高揚し、かつてない緊張感を味わったという。東京五輪への思いを一層強くした経験だった。

2016年と2018年には世界選手権の53キロ級で頂点に立ち、JOCエリートアカデミー出身者として初めての世界王者となった。「ポスト吉田沙保里」と呼ばれるプレッシャーに押しつぶされそうになり、東京五輪出場のかかった2019年の世界選手権前には、試合のことを考えすぎて眠れなくなったこともあった。しかし最近では練習漬けだった日々を見直し、あえて温泉でリラックスする日を設けるなど息抜きを心がけているという。

2019年10月には在学していた至学館大学でコーチを務めていた志土地(しどち)翔大氏と婚約していたことを発表し、インスタグラムでは2人の仲むつまじいオフショットを披露した。正式に籍を入れるのは東京五輪後の予定。金メダルを首にかけ、人生最高の晴れ舞台へ――。二人三脚で最高の物語を紡いでいく。

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