リオデジャネイロ五輪の女子20キロ競歩で16位となった岡田久美子は、その後も日本の女子競歩界をけん引してきた。2020年2月には自身の持つ日本記録を更新。日本選手権で6連覇を達成し、Tokyo 2020(東京五輪)出場を内定させた。アスリートとして難しいコンディション調整に悩まされながらも、第一線で活躍を続ける彼女の強さに迫る。
高橋尚子に憧れ、オリンピック出場が将来の夢に
岡田久美子は1991年10月17日に埼玉県上尾市で産声を上げた。
子供のころからスポーツ中継が好きで、オリンピックもTVで応援していたという。一番のアイドルはシドニー五輪女子マラソンで金メダルを獲得した高橋尚子さん。「Qちゃん」の愛称で知られる長距離ランナーだ。ゴールテープを切って満面の笑顔を見せたQちゃんに憧れて「どんな競技でもいいからオリンピックに出てみたい」と、漠然としながらも、アスリートとしての夢を持つようになる。走ることが得意。バスケットボールやバレーボールといった球技でもスピードを見せていた岡田は、6年生の時、校内マラソン大会で優勝したことにより、自信を深めた。中学校では陸上部に所属する。
陸上競技者として興味を持った種目は駅伝だった。その思いから、強豪陸上部を擁する熊谷女子高等学校へと進学する。最初の練習、熊谷女子高の陸上部では、長距離希望者も“100メートルダッシュ”を行う。この“ダッシュ”は、競歩の適性がある選手を見抜くため“歩く”ことが伝統となっているという。この練習で競歩特有の歩き方を見よう見まねですぐさま実践してみせた岡田に、監督は「お前は世界を目指せる」と言ったという。駅伝に取り組むつもりで入部した陸上部で、競歩転向のアドバイス。岡田は当然戸惑ったが「世界」や「頂点」という響きに強烈に引かれた。こうして岡田の競歩人生が幕を開ける。
ストイックすぎた体重管理…罪悪感を取り除いた言葉
強豪陸上部での厳しい練習の日々。練習量に比例して結果も出るようになった。インターハイ(全国高等学校総合体育大会)3000メートル競歩では、高校2年から連覇を達成。世界ジュニア選手権の1万メートル競歩でも2008年に8位入賞、その2年後には銅メダルを獲得するなど、瞬く間にトップ選手へと成長した。
しかし、ある不安に襲われる。それは体重が増えると遅くなる、記録が落ちるというものだ。実際、長距離種目では体重が軽い方が有利だとされている。そのため、食べることが怖くなってしまった。母親の手作り弁当を捨ててしまうほど追い込まれた岡田は栄養不足のため、ケガも増加。大会などでは、同年代の選手を相手に結果を残していくものの、身体的、そして精神的なコンディションという面では悪循環に飲み込まれていく。
無月経になるなど、アスリートとしてだけでなく、1人の女性としての健康状態も脅かされた状態。そうした悩みを抱えながら、岡田は立教大学へ進む。そこで出会った陸上競技部の長距離総監督、原田昭夫氏にかけられた言葉で、われに返る。この言葉をキッカケに「結果が出なくてもいい。将来活躍するためにも、まずは身体づくりをしっかりとやってほしい」。食べることに罪悪感を抱かなくなり、気持ちも明るく前向きになった。
体重が増えたことで、記録に伸び悩んだ時期があるものの、しっかり自身の身体と向き合い続けた結果、2015年で日本選手権の頂点に立ち、確固たる地位を手にした。2019年の世界選手権ドーハ大会で6位入賞。さらに5000メートル、10000メートル、20キロで日本新記録を樹立するなど、その勢いはとどまるところを知らない。
「東京オリンピックがあるから続けてこられた」。彼女のSNSにつづられた言葉からは並々ならぬ思いが伝わる。日本長距離界、女子競歩のさらなる発展のため、先駆者は歩みを止めない。
選手プロフィール
- 岡田久美子(おかだ・くみこ)
- 競歩20キロ選手
- 生年月日:1991年10月17日
- 出身地:埼玉県上尾市
- 身長/体重:158センチ/47キロ
- 所属校:芝川小(埼玉)→上尾東中(埼玉)→熊谷女子高(埼玉)→立教大(東京)
- 所属:ビックカメラ
- オリンピックの経験:リオデジャネイロ五輪 20キロ競歩16位
- ツイッター(Twitter):岡田久美子(@0ka93)
- インスタグラム(Instagram):kumiko okada(@okaoka1017)