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張本智和や平野美宇らの能力を伸ばした英才教育機関、JOCエリートアカデミー【スポーツの国家的取り組み】

日本代表選手と同じ施設で練習、英会話や栄養学などの学習も

文: オリンピックチャンネル編集部 ·

日本オリンピック委員会(JOC)が力を入れる取り組みとして、将来有望な小中学生を発掘し、オリンピックをはじめとする国際競技大会での活躍を目標に育成していく「JOCエリートアカデミー」という国家的機関がある。これまで7つの競技が対象となり、卓球の張本智和、平野美宇といった世界トップクラスのアスリートを送り出すことに成功した。

少数精鋭、NTCを拠点に寄宿生活

JOCエリートアカデミーが誕生した起源は、2001年12月に結成された卓球の小学生ナショナルチームにある。日本卓球協会強化本部長の宮崎義仁氏は、当時から若手選手の強化育成機関の必要性を訴え続けており、まずは卓球が先陣を切って小学生の育成に着手していた。

その後、2008年に日本オリンピック委員会(JOC)が国際レベルの機能を備えたトップアスリート専用の「味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)」という競技施設を建設。同時に「JOCエリートアカデミー』と呼ばれるJOC管轄の寄宿制ジュニア選手育成事業が始まった。

2008年4月の発足時は卓球男女、レスリング男女の2競技のみで、その後、フェンシング、飛込、ライフル射撃、ボート、アーチェリーが加わり、7競技に拡大。ただし、飛込はNTCや周辺に競技用のプールがなく、練習場所の確保が課題となっていたため、2020年4月に対象から外れている。

JOCが発表している参加選手は2017年度実績で中高生計34名と、少数精鋭での育成環境が整えられている。エリートアカデミーに入った選手はNTCを生活の拠点とし、NTC内に建設された「アスリートヴィレッジ」のエリートアカデミー生専用エリアに寄宿した上で、NTC近隣の公立校に通学しながら競技に励む。

エリートアカデミー生が使用できるNTCの練習環境は充実。卓球台は24面分設置できるスペースが設けられている

小平奈緒らオリンピアンの講演も、世界レベルを身近に

エリートアカデミー生が使用できるNTCの練習環境は充実している。

たとえばレスリングマットは6面、卓球台は約10種類が用意され24面分設置できるスペースが設けられており、これらの国際大会の基準を満たした施設で専門的な練習に取り組むことができる。

何よりジュニア選手たちにとって大きなメリットは、日本代表レベルの選手たちと同じ施設を利用し、身近で練習を見られることだ。競技によっては一緒に練習を行ったり、対峙したりして、日本トップレベルを肌で感じることができる。

エリートアカデミー生は定期的に諸先輩の講演を受ける。柔道のロサンゼルス五輪金メダリストである山下泰裕(写真)が話をしたことも

また、エリートアカデミーで育成するのは競技力だけにとどまらない。JOCはジュニア期におけるアスリートの育成に必要な要素として「競技力」「知的能力」「生活力」の3つを掲げ、なかでも「考える力」を伸ばすことに注力している。

エリートアカデミー生の生活は競技一色というわけではない。むしろ1日の練習時間は平均4時間程度にとどまっている。それ以外の時間では、競技との向き合い方や国際舞台で必要になる英会話といった必修プログラムから「栄養教育」「アンチドーピング教育」といった専門的な知識まで幅広く学習する。プログラムは10種類以上に至り、主に夕食後や週末の時間を使って実施される。

なかでもエリートアカデミーならではの特色的なプログラムの一つに「言語技術教育」がある。「言語技術」は欧米では広く学校教育に取り入れられており、言葉によるあらゆるコミュニケーションの軸となるものと言われている。

エリートアカデミーでは詩の意味を読解したり、目で見た絵を言葉で描写したり、朗読を聞いて要約文を作成したりするなど、あらゆる方法で中高生が言語力を鍛える。言語力を磨くことにより、コーチなどと綿密なコミュニケーションを取れて競技力向上につながるだけでなく、やがては活躍するにつれてメディアへの露出が増えた際にインタビューに受け答えする場面でも役に立つと考えられている。

特色的な取り組みとしては第一線を経験した先輩たちの講演も挙げられる。柔道のロサンゼルス五輪金メダリスト、山下泰裕、スピードスケートの平昌五輪金メダリスト、小平奈緒など、著名なアスリートの講演が毎月1回開催されている。エリートアカデミーに参加すると、常に高い育成環境に身を置く反面、JOC管轄の事業ということもあって「良い成績を残して当たり前」というプレッシャーにさらされ続ける。成長過程のジュニア選手たちは、トップアスリートになるために必要なメンタル面の備えも、カリキュラムやNTCでの生活を通して身につけていく。

吉田沙保里(右)の後継者と目されている向田真優もエリートアカデミーから巣立った

修了生の向田真優は世界選手権で2度優勝

前述したようにエリートアカデミーは競技力だけでなく、人間性の面での教育にも長けた機関であるため、競技成績が良いだけでは参加することができない。選考では学校の出席日数や通知表・内申書も判断材料に用いられ、面接、計算、作文、英語等を含む筆記試験を経て選ばれた選手が対象となる。

2008年の開校から現在に至るまで、エリートアカデミーからは日本代表クラスの選手を何人も巣立っており、着々と成果を挙げている。2020年10月時点の東京五輪内定者のなかでは、卓球男子の張本智和、卓球女子の平野美宇、レスリング男子の乙黒圭祐と乙黒拓斗、レスリング女子の向田真優(むかいだ・まゆ)がエリートアカデミー修了生だ。向田は吉田沙保里の後継者と考えられており、世界選手権で2度の金メダルを獲得とすでに輝かしい成績を収めている。なお、卓球男子の若きエース、張本は中学でエリートアカデミーを修了し、2018年からは木下マイスター東京に所属しながら日本大学高校に通っている。

2020年はエリートアカデミーも例外なく新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、一時期は活動休止を余儀なくされ、各自自宅での練習を強いられていたものの、5月末からアカデミーが再開。レスリングでは選手同士が組み合うことを避けた練習を取り入れたりするなど、新しい生活様式を受け入れながら元の環境を取り戻しつつある。ここから東京五輪、そしてその先の世界の舞台へ羽ばたく選手が多く誕生することが期待される。

東京五輪でメダル獲得が期待される卓球の張本智和(右)と平野美宇(左)。ともにJOCエリートアカデミーで腕を磨いた