攻撃は「突き」だけ。優先権もなく、全身が有効面。世界的人気の「エペ」は最重量級の剣をいかに使いこなすかがポイント

日本女子では高校生アスリートの飛躍にも期待
ルーマニアのアナ・マリア・ブランザ(ポペスク)は女子の注目選手の一人。2018年の世界選手権でも銀メダルを獲得している
ルーマニアのアナ・マリア・ブランザ(ポペスク)は女子の注目選手の一人。2018年の世界選手権でも銀メダルを獲得しているルーマニアのアナ・マリア・ブランザ(ポペスク)は女子の注目選手の一人。2018年の世界選手権でも銀メダルを獲得している

中世ヨーロッパで発展したフェンシングにおいて、世界的に人気が高いのがエペだ。足の裏も含む全身が得点対象であり、多様な攻防が繰り広げられる。2020年東京五輪では、日本勢のメダル獲得にも期待が集まる。特に2015年11月に行われたワールドカップのエペ個人で優勝を果たした見延和靖には大きな期待が寄せられている。

男子個人では1932年のベルリン五輪からイタリア人が6連覇

フェンシングの「エペ」がオリンピックの競技となったのは1900年のパリ五輪だ。1896年の第1回アテネ五輪で行われた「フルーレ」と「サーブル」から4年遅れての採用だった。1900年のパリ五輪のエペでは男子個人が実施されている。1908年のロンドン五輪からはエペの男子団体も行われるようになった。

「フルーレ」と「サーブル」と同様、フェンシングはヨーロッパで発展しただけに、エペでも欧州勢が成績を残してきた。エペの男子個人では1932年のロサンゼルス五輪からイタリア人が6連覇。個人団体では24大会のうちフランスが9回、イタリア8回の優勝と存在感を見せ続けている。

女子のエペは個人と団体ともに1996年のアトランタ五輪から採用されている。こちらも欧州勢力が目立つ。個人では6大会すべて、団体では5大会のうち4大会でヨーロッパ勢が金メダルを獲得している。

2020年の東京五輪のフェンシングは、東京スタジアムや武蔵野の森総合スポーツプラザ、幕張メッセ Bホールが会場となる。2020年7月25日(土)からの9日間で、熱戦が繰り広げられる。

エペは全身が有効面。両者ともに770グラム以下という重さの剣を巧みにさばいて突きを繰り出す
エペは全身が有効面。両者ともに770グラム以下という重さの剣を巧みにさばいて突きを繰り出すエペは全身が有効面。両者ともに770グラム以下という重さの剣を巧みにさばいて突きを繰り出す

エペはルールがシンプルで世界的に人気が高い

フランス語の「épée(エペ)」は剣の呼称で、もともとは戦争時というよりも貴族や騎士たちが名誉を守るために用いられた。日本では北京五輪で太田雄貴氏が銀メダルを獲得した背景も手伝いフルーレの競技人口が多いが、世界的に人気が高いのはエペだ。

エペが世界的に親しまれている理由の一つが、ルールのシンプルさだろう。攻撃は「突き」のみ。有効面に関して言うと、フルーレは背中を含む胴体、サーブルは頭や両腕を含む上半身と限定されているが、エペは足の裏も含む全身が得点対象となる。他の2種目は先に剣先を相手に向けた選手に攻撃の優先権が発生する一方、エペには優先権がなく、先に突いた選手の得点となる。両者同時に突きが認められた場合は、両選手に得点が入る。

有効面となる全身をめがけ、両者ともに突きを繰り出す。スピーディーなだけでなく、足先を狙う意外性のある攻撃や、速さにこだわらず間合いを探りあったり、心理的な駆け引きを選択したりする展開など、多様な試合内容がエペの魅力と言える。

攻撃は「突き」だけ。優先権もなく、全身が有効面という競技の魅力を色濃くしているのが、剣の重さだ。フルーレやサーブルが500グラム以下であるのに対し、スピーディーな展開が多いエペでは770グラム以下という重さの剣を使いこなさなければならない。フェンシングのなかでも最重量級の剣を、いかに緩急をつけて巧みにさばくかが勝敗をわける。

試合形式はフルーレやサーブルと同じだ。個人戦は3分×3ピリオドの9分間。15ポイントを先取した選手が勝者となる。9分間で両者とも15ポイントに至らない場合は、ポイント数が多い選手の勝利が決まる。同点であれば延長戦に突入し、1分間で1ポイントを先取した選手の勝利。延長戦でも決着がつかない際は、コイントスなどの抽選によって優先権がある選手の白星となる。

団体戦は3名による総当たり戦で、1試合3分間形式で9対戦が行われる。どちらかが先に5ポイントを取った場合、あるいは3分間が終了した時点で次の対戦に移る。計9対戦で45ポイントを先取、または9試合までの得点で上回ることが勝利の条件となる。

中国女子は2012年のロンドン五輪の団体ロペで金メダル、リオデジャネイロ五輪で銀メダルを獲得している
中国女子は2012年のロンドン五輪の団体ロペで金メダル、リオデジャネイロ五輪で銀メダルを獲得している中国女子は2012年のロンドン五輪の団体ロペで金メダル、リオデジャネイロ五輪で銀メダルを獲得している

近年は中国や韓国といったアジア勢も善戦

近年の男子エペを振り返ると、ヨーロッパ勢以外の奮闘が目立つ。

2004年アテネ五輪では王磊 (ワン・レイ/中国)が銀、2012年のロンドン五輪ではルベン・リマルド(ベネズエラ)が金、鄭真善 (チョン・ジンソン/韓国)が銅、2016年リオデジャネイロ五輪では朴相泳 (パク・サンヨン)が金と、アジアや南米の選手が台頭してきている。2018年7月に中国の無錫市で行われた世界選手権でも、ベネズエラのリマルドはエペ男子で、韓国はエペ男子団体でそれぞれ準優勝を果たしており、両者とも2020年東京五輪に向けて視界は良好だ。

女子のオリンピックではやはりヨーロッパ勢が強さを見せている。女子のロペで注目の一人がアナ・マリア・ブランザ(ルーマニア)だ。アナ・マリア・ポペスクという名前も使用している。1984年12月26日生まれのベテランで、2008年の北京五輪では銀メダルを獲得。ワールドカップシリーズでは3度の優勝を果たしている。リオデジャネイロ五輪では女子エペ団体でルーマニアを優勝に導き、2018年7月に行われた世界選手権でも銀メダルを獲得した。

一方、女子では中国勢の成長もめざましい。2012年のロンドン五輪で孫玉潔(スン・ユチエ)、リオデジャネイロ五輪で孫一文(スン・イーウェン)と、2大会連続で銅メダルを獲得している。女子団体ロペでは2012年のロンドン五輪で金、リオデジャネイロ五輪で銀と、中国女子のロペはいまや世界トップクラスと言える。

見延和靖は2016年リオデジャネイロ五輪で6位入賞を果たした実力者だ
見延和靖は2016年リオデジャネイロ五輪で6位入賞を果たした実力者だ見延和靖は2016年リオデジャネイロ五輪で6位入賞を果たした実力者だ

日本男子ではワールドカップ王者の見延和靖に注目

日本勢に目を向けてみると、2018年12月時点の男子エペの国内ランキングでは見延和靖がトップにつけ、加納虹輝(こうき)、山田優、宇山賢、坂本圭右(けいすけ)らが続く。

1987年7月15日生まれの見延は高校時代からフェンシングを本格的に始めており、他の選手と比べるとキャリアのスタートは遅いと言えるかもしれない。ただし、フェンシングの名門である法政大学に進学すると、めきめきと頭角を現した。

主要学生大会における優勝だけでなく、2010年のアジア競技大会のエペ団体戦で銅メダルを獲得。フェンシングの強豪国イタリアでの修行を経て、2015年11月にエストニアで行われたワールドカップのエペ個人では日本人初の優勝を手繰り寄せた。2016年リオデジャネイロ五輪でも6位入賞を果たした実力者だ。2018年末の全日本選手権もきっちりと制覇しており、2020年東京五輪での活躍が期待される。

2018年12月時点の女子個人エペの国内ランキングでトップにつけるのは、下大川綾華だ。2015年には世界選手権に出場。2016年の全日本選手権で優勝を果たしている。2018年7月の世界選手権は3月に右ひざの手術を受けた影響もあってか、初戦敗退を喫した。それでも、2016年のリオデジャネイロ五輪代表から漏れた悔しさを晴らすべく、2020年東京五輪での活躍を狙う。

女子では寺山珠樹(たまき)や原田紗希、高橋栄利佳といった高校生アスリートの飛躍にも期待が高まる。三者とも2018年末の全日本選手権では好結果を残した。まだ十代ながら、寺山は2位、原田は6位、高橋は9位と存在感を見せつけており、2020年の東京五輪出場も決して夢ではない。

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