【東京オリンピック出場枠争い】陸上・長距離:日本マラソン界は代表決定方法をめぐり混乱が発生。MGCで東京五輪の代表選手が決まらない可能性も

選手選考はIAAFのワールドランキングが何より優先される

東京五輪を走るマラソンの日本代表は、当初2019年9月15日に行われるマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)で決まるはずだった。しかし、IAAF(国際陸上競技連盟)がワールドランキングの優位性を発表したことで、先行きは不透明に。一方、男子の競歩はランキング上位に多くの日本人が名を連ね、出場権争いは激化している。

マラソンの日本記録を持つ大迫傑だが、資格取得期間に入った2019年1月1日以降は一度もIAAFが定める参加標準記録を突破していない
マラソンの日本記録を持つ大迫傑だが、資格取得期間に入った2019年1月1日以降は一度もIAAFが定める参加標準記録を突破していないマラソンの日本記録を持つ大迫傑だが、資格取得期間に入った2019年1月1日以降は一度もIAAFが定める参加標準記録を突破していない

一発勝負のMGCで明確化されたはずが……

東京五輪で行われる「ロード」の種目には男女のマラソン、男女の20キロ競歩、そして男子50キロ競歩が該当する。また、男子10種競技と女子7種競技は「混成」と呼ばれる。

国際陸上連盟(以下IAAF)は2019年3月10日、2020年東京五輪への出場資格獲得方式を発表した。新たな規定によると、各種目のアスリートはオリンピックの出場権を得るために、以下の条件のどちらかをクリアしなければならない。

陸上競技における東京五輪出場の条件

  • 資格取得期間終了時に、IFFAが定めるワールドランキングで上位に名を連ねる
  • 2019年3月10日に発表された参加標準記録を、資格取得期間中に突破する

出場権の取得期間は、マラソンと50キロ競歩が2019年1月1日から2020年5月31日まで、20キロ競歩と10種競技、7種競技は2019年1月1日から2020年6月29日までと設定されている。

ワールドランキングは各アスリートが出場した大会のランクやタイムなどをポイントに換算し、その平均値で算出される。ワールドランキングと参加標準記録では、ワールドランキングのほうに優先権があり、出場枠は各種目について1カ国から3人までとなっている。東京で開催されるからといって、日本人アスリートが「開催国枠」で必ず出場できるわけではなく、上記の条件を満たさなければ出場権を得ることはできない。

この決定で混乱に陥っているのがマラソン競技だ。日本には過去、複数の選考レースが存在し、オリンピック代表に誰を選ぶかの基準があいまいで、選考をめぐって議論が巻き起こることが少なくなかった。

そこで今回、日本陸上競技連盟はマラソングランドチャンピオンシップ(以下MGC)を創設した。これは2019年9月15日に行われる選考レースで、コースは2020年東京五輪のマラソン競技のコースとほぼ同じ。2017年夏以降のレースにおいて、MGCに参加するための設定タイムを突破した選手にのみ出場権が与えられ、この大会で2位以内に入ればオリンピック出場が内定するというものだ。残り1名はMGC後の選考レースで好成績を残した選手から選出され、該当者がいない場合はMGC3位の選手が内定となる。ほぼ一発勝負での明快な選考が可能で、内定すれば本番まで1年近くの準備期間を設けることができるはずだった。

ケニアのエリウド・キプチョゲは2時間01分39秒というマラソンの世界記録を保持。ワールドランキングでもトップに立つ
ケニアのエリウド・キプチョゲは2時間01分39秒というマラソンの世界記録を保持。ワールドランキングでもトップに立つケニアのエリウド・キプチョゲは2時間01分39秒というマラソンの世界記録を保持。ワールドランキングでもトップに立つ

大迫傑らが東京オリンピックの出場権を逃す可能性も

しかし、IAAFの出場資格獲得方式の発表により、MGCで2位以内に入ってもオリンピック出場が決まらない可能性が出てきた。MGCの結果以上にIAAFによるワールドランキングと参加標準記録が優先されるためだ。

2019年4月30日更新のIAAFのワールドランキングを見ると、男子マラソンで100位以内に入っている日本人は、27位の大迫傑(おおさこ・すぐる)、52位の設楽悠太(したら・ゆうた)、54位の服部勇馬(はっとり・ゆうま)の3人。1位のエリウド・キプチョゲ(ケニア)や2位のモシネ・ゲレムー(エチオピア)をはじめ、ランキング上位にはケニア勢とエチオピア勢が数多く名を連ねている。上位を占めるアフリカ勢のなかから1カ国につき3人ずつしかオリンピックに出場できないことを考えると、大迫、設楽、服部の3人は現時点ならランキングでかなりの上位に位置することになり、オリンピック出場を有力視していい。

自己ベストは大迫が2時間5分50秒(日本記録)、設楽が2時間6分11秒、服部が2時間7分27秒で、IAAFが定める参加標準記録の2時間11分30秒を問題なくクリアしている。しかし、問題は記録を出した日時だ。3者が前述の記録を出したのはいずれも2018年で、資格取得期間に入った2019年1月1日以降は一度も参加標準記録を突破していない。ワールドランキングは変動する可能性もあるため、一度は標準記録を突破しておかなければならないが、そのためにはMGC以降に他のレースに出場しなければならない可能性も出てくる。

福士加代子はリオデジャネイロ五輪まで4大会連続でオリンピックに出場。名古屋ウィメンズマラソン2019でIAAFによる参加標準記録を突破している
福士加代子はリオデジャネイロ五輪まで4大会連続でオリンピックに出場。名古屋ウィメンズマラソン2019でIAAFによる参加標準記録を突破している福士加代子はリオデジャネイロ五輪まで4大会連続でオリンピックに出場。名古屋ウィメンズマラソン2019でIAAFによる参加標準記録を突破している

日本のMGC出場ランナーで、IAAFが定める資格取得期間中に参加標準記録を突破しているのは、以下の男子10名、女子8名となっている。

IAAFによる資格取得期間中に参加標準記録を突破した選手

男子(参加標準記録:2時間11分30秒)

  • 二岡康平(2時間9分15秒/別府大分毎日マラソン2019)
  • 川内優輝(2時間9分21秒/びわ湖毎日マラソン2019)
  • 橋本崚(2時間9分29秒/別府大分毎日マラソン2019)
  • 岩田勇治(2時間9分30秒/別府大分毎日マラソン2019)
  • 高久龍(2時間10分03秒/ハンブルクマラソン2019)
  • 荻野皓平(2時間10分15秒/ハンブルクマラソン2019)
  • 堀尾謙介(2時間10分21秒/東京マラソン2019)
  • 今井正人(2時間10分30秒/東京マラソン2019)
  • 山本浩之(2時間10分33秒/びわ湖毎日マラソン2019)
  • 藤川拓也(2時間10分35秒/東京マラソン2019)
  • 河合代二(2時間10分50秒/びわ湖毎日マラソン2019)
  • 神野大地(2時間11分5秒/東京マラソン2019)
  • 一色恭志(2時間11分23秒/ハンブルクマラソン2019)

女子(参加標準記録:2時間29分30秒)

  • 岩出玲亜(2時間23分/名古屋ウィメンズマラソン2019)
  • 福士加代子(2時間24分09秒/名古屋ウィメンズマラソン2019)
  • 上原美幸(2時間24分19秒/名古屋ウィメンズマラソン2019)
  • 一山麻緒(2時間24分33秒/東京マラソン2019)
  • 前田彩里(2時間25分25秒/名古屋ウィメンズマラソン2019)
  • 谷本観月(2時間25分28秒/名古屋ウィメンズマラソン2019)
  • 小原怜(2時間25分46秒/大阪国際女子マラソン2019)
  • 池満綾乃(2時間26分07秒/名古屋ウィメンズマラソン2019)
  • 中野円花(2時間27分39秒/大阪国際女子マラソン2019)

上記の日本人アスリートたちがMGCにおいて2位以内でフィニッシュした場合でも、安心はできない。IAAFの方針により、資格取得期間の成績を反映させたワールドランキングが出る2020年5月31日以降でなければ、オリンピック出場権は確定されないことになる。

東京オリンピック出場内定選手(9月17日時点)

2019年9月15日(日)に開催されたマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)で男女それぞれ上位2人が東京オリンピック出場選手に内定している。

男子

  • 中村匠吾(富士通)
  • 服部勇馬(トヨタ自動車)

女子

  • 前田穂南(天満屋)
  • 鈴木亜由子(日本郵政グループ)
一山麻緒は東京マラソン大会2019で日本人女子選手トップの成績。フルマラソンに転向したばかりながらしっかりと結果を残している
一山麻緒は東京マラソン大会2019で日本人女子選手トップの成績。フルマラソンに転向したばかりながらしっかりと結果を残している一山麻緒は東京マラソン大会2019で日本人女子選手トップの成績。フルマラソンに転向したばかりながらしっかりと結果を残している

男子競歩は日本屈指の激戦区

マラソンのような外的要因による混乱はないものの、世界的に強い日本人競歩界の代表争いも激化している。IAAFのワールドランキングにおいて、特に多くの日本人アスリートが上位に名を連ねている競技は男子の20キロ競歩と50キロ競歩だ。それぞれ2019年4月30日時点のランキングを見ると、上位20位までのなかに以下の日本人選手の名前が並ぶ。

男子20キロ競歩 IAAFワールドランキング

  • 1位:山西利和(やまにし・としかず)
  • 2位:池田向希(いけだ・こうき)
  • 4位:高橋英輝(たかはし・えいき)
  • 8位:藤澤勇(ふじさわ・いさむ)
  • 11位:川野将虎(かわの・まさとら)
  • 12位:野田明宏(のだ・ともひろ)
  • 15位:松永大介(まつなが・だいすけ)
  • 19位:荒井広宙(あらい・ひろおき)
  • 20位:及川文隆(おいかわ・ふみたか)

男子50キロ競歩 IAAFワールドランキング

  • 2位:荒井広宙(あらい・ひろおき)
  • 3位:丸尾知司(まるお・さとし)
  • 4位:勝木隼人(かつき・はやと)
  • 7位:鈴木雄介(すずき・ゆうすけ)
  • 8位:川野将虎(かわの・まさとら)
  • 12位:野田明宏(のだ・ともひろ)
  • 18位:小林快(こばやし・かい)

マラソンなどの長距離走でケニア勢、エチオピア勢が上位を独占しているが、競歩では日本人が同じ現象を起こし、激しい出場権争いを演じている。50キロ競歩でワールドランキング7位につける鈴木雄介は、2015年3月に男子20キロ競歩で1時間16分36秒の世界記録を打ち立てたが、その後は故障に悩まされて50キロに転向。2019年4月に3時間39分07秒の日本記録を樹立し、2020年東京五輪のメダル候補に名乗りを上げている。

なお、競歩は2019年9月にカタールのドーハで行われる世界陸上競技選手権大会で、日本人最高位でメダルを獲得した選手に対し、無条件で2020年東京五輪への出場権が与えられる見込みだ。

東京オリンピック出場内定選手(10月7日時点)

男子20kmの山西利和と50kmの鈴木雄介は"世界陸上ドーハ2019"で金メダルを獲得し、東京オリンピック代表に内定している。

男子20km

  • 山西利和

男子50km

  • 鈴木雄介
左から松永大介、池田向希、藤澤勇、山西利和、高橋英輝。日本の男子競歩陣は世界トップクラスの実力を持つ
左から松永大介、池田向希、藤澤勇、山西利和、高橋英輝。日本の男子競歩陣は世界トップクラスの実力を持つ左から松永大介、池田向希、藤澤勇、山西利和、高橋英輝。日本の男子競歩陣は世界トップクラスの実力を持つ

一方、他種目競技の10種競技と7種競技は、欧米勢がワールドランキング上位を占めている。男子による10種競技は、2016年リオデジャネイロ五輪銀メダリストで9126点の世界記録を持つケビン・マイヤー(フランス)がトップに立ち、ダミアン・ワーナー(カナダ)やアルトゥール・アーベレ(ドイツ)らベテラン勢が追いかける。

日本人では右代啓祐(うしろ・けいすけ)が19位、中村明彦が32位、丸山優真が56位につける。女子による7種競技ではナフィサトウ・ティアム(ベルギー)が圧倒的な強さを見せつけており、日本人は山﨑有紀が39位、ヘンプヒル恵(めぐ)が74位、宇都宮絵莉が86位となっている。

7種競技のワールドランキングではベルギーのナフィサトウ・ティアム(右)が首位に立つ。リオデジャネイロ五輪では金メダルを獲得している
7種競技のワールドランキングではベルギーのナフィサトウ・ティアム(右)が首位に立つ。リオデジャネイロ五輪では金メダルを獲得している7種競技のワールドランキングではベルギーのナフィサトウ・ティアム(右)が首位に立つ。リオデジャネイロ五輪では金メダルを獲得している

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