東京五輪のマラソン日本代表は新たな選考方法MGCを採用。第一関門を突破しなければ、選考の舞台には立てない

東京五輪でのメダル獲得を見据えての改革

オリンピックマラソンのメダルにしばらく見放されている状況から、日本陸上競技連盟は東京五輪に向けた強化とリンクした新たな選考方法を導入した。選考レースで好タイムを残しても代表に選ばれない、といったアンフェアな人選の可能性はぐっと減った。東京五輪でのメダル獲得を見据えて導入された、新たな選考方法について紹介する。

2004年のアテネ五輪で金メダルを獲得した野口みずき。以降、日本のマラソン界はメダルから遠ざかっている
2004年のアテネ五輪で金メダルを獲得した野口みずき。以降、日本のマラソン界はメダルから遠ざかっている2004年のアテネ五輪で金メダルを獲得した野口みずき。以降、日本のマラソン界はメダルから遠ざかっている

相対評価による従来の選考方法は公平さを欠いた

マラソン日本代表の従来の選考方法は、オリンピックの前年に開催される世界選手権をはじめとした4つの選考レースの結果をもとに、代表3選手を決める方式を取っていた。ただし、選考の基準に不透明さが残っていた。選考レースで好記録を残しても代表に選ばれないという例が少なくなかった。

歴史を振り返ると、1992年のバルセロナ五輪では、選考レースで実際に出場した有森裕子を上回る2時間27分2秒の好タイムを出したにもかかわらず、松野明美が代表から落選。次の1996年のアトランタ五輪でも、鈴木裕美が代表候補者のなかで最高タイムをたたき出しながらも選に漏れている。

記録を残しながら涙をのんだ選手が少なくなかったのは、条件が異なる複数レースの結果をもとに、日本陸連の理事会などが相対評価を通して選ぶという形だったからだ。経験値や期待値が全く加味されていなかったとは言い切れないだろう。公平性が確保されていないなかでの日本代表の選出は、オリンピックのたびに物議を醸してきた。

これまで以上に公平に優秀な選手を選ぶ

2004年のアテネ五輪で野口みずきが金メダルを獲得して以降、日本のマラソン界は低迷が続く。男子に至っては1992年のバルセロナ五輪で森下広一が銀メダルを獲得して以降、表彰台に上がる選手は現れていない。

この状況を重く受け止めた日本陸上競技連盟(以下日本陸連)は、かつての黄金期を取り戻すべく、新たなマラソン日本代表の選考方法を導入した。これまで以上に公平に優秀な選手を選び、来る東京五輪でメダルを獲得するのが狙いだ。

新たに採用された選考方法は、2019年9月以降に行われる「マラソングランドチャンピオンシップ(以下MGC)」から男女で上位2名の選手を、さらにこのレースの後に開催される「マラソングランドチャンピオンシップファイナルチャレンジ」から男女最後の1名を選出するというもの。いずれの大会も指定競技会となるレースで結果を出さなければ出場できない。いわば条件をクリアした選手だけがオリンピック出場権をかけた大会に参戦できる形で、順位とタイムという誰の目にも公平な基準が設けられた。

松野明美(左)は好タイムを出しながらバルセロナ五輪の代表から落選。結果が最重要視されない選考には不透明さがあった
松野明美(左)は好タイムを出しながらバルセロナ五輪の代表から落選。結果が最重要視されない選考には不透明さがあった松野明美(左)は好タイムを出しながらバルセロナ五輪の代表から落選。結果が最重要視されない選考には不透明さがあった

対象大会での条件クリアが第一関門

繰り返しになるが、今回新たに採用された選考方法には順位とタイムという誰の目にも公平な基準が導入された。

代表3枠を選ぶためのMGCやMGCファイナルチャレンジに出場するためには第一関門が存在する。2017年の夏から2019年春にかけて行われるレースが対象で、MGCシリーズと呼ばれるものだ。男子は北海道マラソン、福岡国際マラソン、別府大分毎日マラソン、東京マラソン、びわ湖毎日マラソンの5大会、女子は北海道マラソン、さいたま国際マラソン、大阪国際女子マラソン、名古屋ウィメンズマラソンの4大会が最初のハードルとなる。

これらの大会において、日本陸連が設定したレースごとの順位とタイムをクリアすることで東京五輪の代表選手を決めるMGCへの出場権を得ることができる。MGCシリーズの基準タイムはそれぞれ微妙に異なるが、男子は2時間11分00秒以内、女子は2時間28分00秒以内が大まかな目安となる。なお、MGCシリーズ以外でも、国際陸上競技連盟公認のレースにおいて基準となる順位やタイムを記録した選手、または世界陸上の8位入賞者、アジア競技大会の3位入賞者なども、ワイルドカードとしてMGCに出場できる。

2019 年 9 月以降に開催予定のMGCでは男女ともに代表2枠が決定する。1枠はMGCで優勝した選手で確定。残りの1枠は、2位と3位の選手のうち、自己ベストタイムが「MGC派遣設定記録」を突破しており、かつ最上位者が代表として選ばれる。「MGC派遣設定記録」を具体的に見ると、男子は2 時間 05 分 30 秒 、女子は2 時間 21 分 00 秒 となっており、このタイムをクリアしている選手がいない場合はMGC の2位の選手が自動的に日の丸を背負うことになる。

最後の1枠は、MGCファイナルチャレンジで決まる。2019年の冬から2020年の春にかけて行われるレースが対象で、男子は福岡国際マラソン、東京マラソン、びわ湖毎日マラソンの3大会、女子はさいたま国際マラソン、大阪国際女子マラソン、名古屋ウィメンズマラソンの3大会が最終選考の場になる。これらのレースで、2019年5月に発表予定の「MGCファイナルチャレンジ派遣設定記録」を上回り、最も速いタイムを出した選手が最後の1枠を獲得することができる形となっている。

井上大也は2018年2月に行われた東京マラソンで2時間06分54秒の記録で日本人2位の成績を出し、MGC出場権を獲得
井上大也は2018年2月に行われた東京マラソンで2時間06分54秒の記録で日本人2位の成績を出し、MGC出場権を獲得井上大也は2018年2月に行われた東京マラソンで2時間06分54秒の記録で日本人2位の成績を出し、MGC出場権を獲得

続々とMGCに名乗りを上げる選手たち

2017年7月から始まったMGCシリーズも約1年半が経ち、MGC出場権を獲得した選手も増えてきた。

まずは2018年2月の東京マラソンで16年ぶりに日本記録を更新する2時間06分11秒でゴールし、見事2位につけた設楽悠太。設楽の日本記録樹立からわずか7カ月後に開催されたシカゴマラソンでさらに日本記録を更新する2時間05分50秒をマークした大迫傑(すぐる)は、2017年12月に行われた福岡国際マラソンで日本人1位に輝き、早々とMGC出場のチケットを手にしている。ちなみに、日本記録を更新した設楽と大迫は日本実業団陸上連合からそれぞれ報奨金1億円を贈られている。

2018年12月2日に行われた福岡国際マラソンでは服部勇馬が優勝を果たした。36キロから驚異のラストスパートを見せ、2位以下を大きく引き離し2時間7分27秒で大会を制し、服部勇馬も新たなMGC挑戦者となった。その他、村澤明伸、上門大祐、竹ノ内佳樹(よしき)、井上大仁(ひろと)、川内優輝といった実力者たちも予想どおりMGC出場権を獲得している。

一方の女子のMGCファイナリストは男子よりも若い世代の台頭が目覚ましい。2017年8月の北海道マラソンで優勝した前田穂南は1996年7月17日生まれ。その他、安藤友香が1994年3月16日生まれ、岩出玲亜(れいあ)が1994年12月8日生まれ、関根花観(はなみ)が1996年2月26日生まれ、松田瑞生(みずき)が1995年5月31日生まれと、20代前半の若い選手が多く名を連ねている。まだ伸びしろが残されている若手は、MGCまでにさらに力をつけてくるはずだ。

一定の条件をクリアし東京五輪に王手をかけた選手たちが走るMGC。実力者たちによるオリンピック出場をめぐるレースが盛り上がらないわけがない。

関根花観(右)は2016年五輪には1万メートルの日本代表として出場。2018年にフルマラソンに本格転向したばかりながらMGC出場を決めている
関根花観(右)は2016年五輪には1万メートルの日本代表として出場。2018年にフルマラソンに本格転向したばかりながらMGC出場を決めている関根花観(右)は2016年五輪には1万メートルの日本代表として出場。2018年にフルマラソンに本格転向したばかりながらMGC出場を決めている

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