江村美咲:サーブルで最強の存在をめざす「サラブレッド」は「100人斬り」も披露

種目変更を機に頭角を現し、世界と伍する存在へと成長

両親ともにフェンシング元日本代表というサラブレッドながら、フルーレでは平均的な選手だった江村美咲。しかしサーブルへの転向を機に競技の楽しさを知り、今では世界トップクラスの実力者へと成長。2020年東京五輪では、個人と団体での金メダルをめざす。

170センチ近い長身で手足が長く、恵まれた体格を生かした多彩な攻撃を持ち味とする/時事
170センチ近い長身で手足が長く、恵まれた体格を生かした多彩な攻撃を持ち味とする/時事170センチ近い長身で手足が長く、恵まれた体格を生かした多彩な攻撃を持ち味とする/時事

「100人斬り」の動画で話題に

2016年4月、インターネットサービスプロバイダの『NTTぷらら』が2分程度の動画を公開し、大きな話題を呼んだ。動画の舞台は駅のホーム。フェンシングの剣を持った女子高校生が、日本刀を手に斬りかかってくるビジネスマンを次々に切り倒していく。その数、実に100人。最後には甲冑姿の武者も倒してみせる。同社の映像配信サービスを訴求するこの動画で「100人斬り」を演じた女子高校生こそ、フェンシング女子サーブル日本代表の江村美咲(みさき)だ。

当時、江村は実際の女子高校生だった。そして、味の素ナショナルトレーニングセンターを本拠地とするJOCエリートアカデミーの一員でもある、名実ともに日本トップクラスのフェンサーだった。

賞品のパズル欲しさにサーブルに転向

1998年11月20日、大分県で生まれた。本格的にフェンシングを始めたのは小学3年生の時。両親と兄の影響によるものだった。父の宏二氏は1988年ソウル五輪で男子フルーレ個人に出場し、2008年北京五輪では日本代表の監督、2012年ロンドン五輪ではコーチを務め、太田雄貴氏や男子フルーレ団体の銀メダル獲得を支えた。母親の孝枝さんも女子エペで世界選手権に出場した経験を持つ。江村は両親ともに日本代表歴を持つという超エリート一家出身の「サラブレッド」で、先に競技を始めていた兄の姿を見て、自身も始めることになった。

他の選手と同様、江村も日本での主流であるフルーレで競技をスタートさせた。これだけのフェンシング一家出身であればすぐに頭角を現しそうなものだが、江村は「いざやってみたら自分に合わない。がんばっても国内の小さな大会でベスト8ぐらい」というレベルだったという。

転機が訪れたのは中学に上がる直前、味の素ナショナルトレーニングセンターで行われたある大会がきっかけだった。サーブル競技の優勝賞品として用意されていたのは、当時の彼女が大好きだった『ウサビッチ』というキャラクターのジグソーパズル。小学生女子のモチベーションを上げるには十分なものだ。フルーレとサーブルは別の競技と言えるほどの違いがあるものの、江村はジグソーパズル欲しさに普段のフルーレではなく、サーブルでこの大会にエントリーした。そして、出場者わずか4人というこの大会で見事に優勝し、念願のジグソーパズルを手に入れた。

この大会で勝つ喜びを知ったことがきっかけとなり、江村は中学への進学を機にサーブルへと転向し、ここからようやく頭角を現していく。高校入学時にはJOCエリートアカデミーに加入し、オリンピックを含む国際舞台で活躍できる人材を育てる環境で実力を伸ばしていった。

高校卒業後の2017年には中央大学法学部へと進学する。味の素ナショナルトレーニングセンターを練習拠点としつつ、授業のある日は午前中にトレーニングをこなした後に片道1時間半ほどかけて大学に通うなど、多忙な日々を送っている。

2014年のユースオリンピックでは、宮脇花綸(左)とともに出場した大陸別混合団体で金メダルを獲得した
2014年のユースオリンピックでは、宮脇花綸(左)とともに出場した大陸別混合団体で金メダルを獲得した2014年のユースオリンピックでは、宮脇花綸(左)とともに出場した大陸別混合団体で金メダルを獲得した

ユースオリンピックで高めた東京五輪への思い

サーブルはフルーレやエペと違い、突きに加えて斬ることでもポイントが入る種目だ。斬る動きが加わるためにフルーレやエペに比べて剣が大きく動き、ダイナミックでスピーディーな攻防が魅力となる。江村は170センチ近い長身で手足が長く、この恵まれた体格を生かした多彩な攻撃が持ち味。相手との間合いを取った状態から一気に仕掛けるロングアタックが得意技だ。

印象深い大会として、彼女自身は2014年に中国の南京で行われたユースオリンピックを挙げている。女子サーブル個人では3位決定戦で敗れ、惜しくもメダル獲得はならなかったが、女子フルーレの第一人者である宮脇花綸(かりん)とともにアジア&オセアニアの合同チームの一員として出場した大陸別混合団体で、見事に金メダルを獲得した。

ユースオリンピックは14歳から18歳のアスリートが出場できる大会で、その名前が示すとおり国際オリンピック委員会(IOC)が主催する。オリンピックのユース版と言える大会であり、オリンピックシンボルも使用される。「オリンピック」の名を冠した大会で金メダルを獲得したことにより、江村のなかに「本当の夏季オリンピックに出場したい」という思いが募るようになっていった。

しかし2016年リオデジャネイロ五輪の選考では、年間世界ランキングでわずか4ポイント足りず、代表入りを逃すこととなった。バックアップメンバーとしてリオデジャネイロ入りし、出場した青木千佳のトレーニングパートナーを務めたため、大会の雰囲気を体感することはできたものの、同時に悔しさも味わった。

2014年ユースオリンピック時の写真。「オリンピック」の名を冠した大会で金メダルを獲得し「本当の夏季オリンピックに出場したい」という思いが強まった
2014年ユースオリンピック時の写真。「オリンピック」の名を冠した大会で金メダルを獲得し「本当の夏季オリンピックに出場したい」という思いが強まった2014年ユースオリンピック時の写真。「オリンピック」の名を冠した大会で金メダルを獲得し「本当の夏季オリンピックに出場したい」という思いが強まった

オリンピック金メダル、最強のフェンサーをめざす

その悔しさをバネに、江村は自身の強化に努めてきた。2017年のアジア選手権では女子サーブル個人で銅メダルを手にし、ユニバーシアード競技大会でも女子サーブル個人で銅メダル、女子サーブル団体では金メダルを獲得した。

2018年1月には、アメリカで行われたワールドカップの女子サーブル個人で銀メダルを獲得。そして12月に行われた全日本選手権では、中央大の同級生であり、中学生時代からのライバルでもある向江彩伽(むかえ・あやか)との決勝を制し、初優勝を飾っている。2018年12月14日時点の国内ランキングは1位。2019年1月時点の世界ランキングは37位だが、これは故障で大会を欠場していた影響によるもので、2018年5月には7位にランクインしていた。実力が世界レベルにあることは間違いない。

2020年東京五輪での目標は、個人、団体の両方で金メダルを獲得すること。そして「最強になること」。競技人生は東京五輪後も続く。「フェンシングと言えば江村美咲」。そう呼ばれる存在になることを目標に、技を磨いている。

2014年ユースオリンピックの江村(右)。女子サーブル個人では3位決定戦で敗れ、メダル獲得は果たせなかった
2014年ユースオリンピックの江村(右)。女子サーブル個人では3位決定戦で敗れ、メダル獲得は果たせなかった2014年ユースオリンピックの江村(右)。女子サーブル個人では3位決定戦で敗れ、メダル獲得は果たせなかった

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