渡辺一平:北島康介が後継者に指名。200メートル平泳ぎ世界記録保持者は最速タイムの塗り替えを見据える

2019年春からトヨタ自動車でさらなる成長を期す
2018年パンパシ水泳の男子200m平泳ぎで優勝を果たした渡辺一平
2018年パンパシ水泳の男子200m平泳ぎで優勝を果たした渡辺一平2018年パンパシ水泳の男子200m平泳ぎで優勝を果たした渡辺一平

2019年3月、22歳の誕生日を迎えたばかりの渡辺一平は、日本競泳界における期待の若手だ。リオデジャネイロ五輪では準決勝でオリンピック新記録を更新しながら、決勝では6位に終わり悔しさを味わった。しかし大舞台での経験を生かし、その後の主要大会で順調にメダルを獲得。東京への準備は万端だ。

193センチと恵まれた体格で、長い手を広げて水をかいた時に、背中よりひじが後ろにまわり、多くの水をとらえることができる
193センチと恵まれた体格で、長い手を広げて水をかいた時に、背中よりひじが後ろにまわり、多くの水をとらえることができる193センチと恵まれた体格で、長い手を広げて水をかいた時に、背中よりひじが後ろにまわり、多くの水をとらえることができる

19歳でリオデジャネイロ五輪に出場

渡辺一平は1997年3月18日に大分県津久見市で生まれた。3人の姉に囲まれ、にぎやかで仲の良い家庭でのびのびと育ったという。

水泳と出合ったのは小学校2年生の時だ。実は幼稚園時代に海で溺れたという、一見トラウマになりそうなエピソードを持つが、すでに「水泳で生きる道」が用意されていたのか、スイミングクラスに通い始めた際も「水への恐怖心は全くなかった」と振り返ったことがある。徐々に才能を開花させると、津久見市立第一中学校の2年次には全国JOCジュニアオリンピックへの出場を果たした。

中学卒業後は、水泳の強豪校として知られる大分県立佐伯鶴城高等学校への進学を選んだ。実家からは自転車と電車を駆使して片道40分という道のりだったが、充実したプール施設を備える環境で練習に打ち込み、一気に頭角を現す。

2014年、高校2年生にして南京ユースオリンピック日本代表に選出されると、男子200メートル平泳ぎで見事に金メダルを獲得してみせた。そして翌2015年、高校卒業前最後のジュニアオリンピック春季水泳競技大会では100メートルと200メートルの2種目を制覇して最優秀選手に輝く。同世代において圧倒的な存在と見なされた。

2015年4月には同じく競泳選手の瀬戸大也と坂井聖人(まさと)も学ぶ早稲田大学スポーツ科学部に入学する。1年目はなかなか結果が出せなかったものの、大学2年次に日本選手権水泳競技大会という大舞台で2分8秒83という当時の自己ベストを記録して決勝に進出すると、決勝では2分9秒45で派遣標準記録をクリアしてリオデジャネイロ五輪代表の座をつかんだ。

リオデジャネイロ五輪では準決勝でオリンピック新記録を打ち立てながら、最終的には6位の成績。悔しい思いを味わった
リオデジャネイロ五輪では準決勝でオリンピック新記録を打ち立てながら、最終的には6位の成績。悔しい思いを味わったリオデジャネイロ五輪では準決勝でオリンピック新記録を打ち立てながら、最終的には6位の成績。悔しい思いを味わった

2017年1月に世界記録を更新

両親が駆けつけたリオデジャネイロの地では、200メートル平泳ぎで順調に予選を突破。一つ先輩の坂井が200メートルバタフライで銀メダルを獲得したこともあり、「絶対にここで敗退はできない」と気合が入ったという。すると準決勝では初の大舞台とは思えない貫録の泳ぎを見せ、2分7秒22というオリンピック新記録をマーク。1位通過を決めた。

しかしこの記録によって一気に世間の注目を浴びた渡辺は、期待という重圧に苦しむことになった。「優勝候補の一人のように取り上げられたことで、決勝では少し消極的なレースになってしまった」と当時を思い出す。決勝では6位という悔しい結果に終わった。だが、貴重な学びを得たことは間違いない。

渡辺は「競技に入る前から、メダルを獲得する人は顔を見ればわかる」と感じた。何よりその選手の持つオーラが周囲を圧倒していたという。そしてそのオーラというものは、人より何倍も努力してきた証し。だからこそ、自分もそんなオーラをまとえるように練習を重ねていくことがメダルという結果につながると身をもって感じることができた。

気持ちを新たに、さらなる飛躍をめざして挑んだ2017年1月、渡辺は第10回東京都選手権水泳競技大会でさっそく結果を出す。200メートル平泳ぎで2分6秒67のタイムを出し、2012年に山口観弘(あきひろ)が樹立した世界記録を塗り替えてみせた。

勢いはとどまるところを知らず、2017年7月の世界選手権では銅メダルを獲得。2018年のパンパシフィック水泳選手権大会では、ついに主要国際大会で自身初の金メダルを手にする。アジア競技大会でも日本代表に選出されると、銀メダルを首にかけて帰国した。

2018年のパンパシフィック水泳選手権大会では金メダルを獲得。インタビュアーを務めた北島康介から直接後継者の指名を受けた
2018年のパンパシフィック水泳選手権大会では金メダルを獲得。インタビュアーを務めた北島康介から直接後継者の指名を受けた2018年のパンパシフィック水泳選手権大会では金メダルを獲得。インタビュアーを務めた北島康介から直接後継者の指名を受けた

「レジェンド」北島康介からの期待

パンパシ水泳で頂点に立った渡辺に、言わずと知れた「競泳界のレジェンド」北島康介が「日本の平泳ぎを託していいですか」と問いかけた場面があった。渡辺は謙虚に「がんばります」とだけ答えたが、胸のうちには熱い思いがこみ上げていたに違いない。

渡辺にとって、北島はずっと憧れてきたヒーローだった。2004年アテネ五輪、ちょうど水泳を始めたばかりの渡辺少年はテレビに映し出された北島の雄叫びに目を奪われた。ある取材で渡辺はこう話したことがある。「誰からも勝つと思われ、それを現実にしてしまう。北島さんへの憧れが大きすぎて、世界新記録を出した今でも追いつけたなんて微塵も感じていない」

渡辺自身は「平泳ぎは身長が一番関係ない」と語るが、北島よりも15センチ大きい、193センチという日本人離れした体格は大きな武器となる。決して筋力が多いタイプではないが、肩は柔らかい。手を広げて水をかいた時に、背中よりひじが後ろにまわり、多くの水をとらえることができる。

2019年3月には晴れて大学を卒業し、「東京オリンピックで目標を成し遂げるための最良の選択」として、トヨタ自動車に所属することを決めた。練習環境は変わらず慣れ親しんだ早稲田大に置き、競技中心で活動していく。東京五輪、すぐそこまで迫っている夢の舞台では、表彰台はもちろん、自身の持つオリンピック記録、世界記録の更新を狙っている。「競泳選手として一番ピークの年齢」で迎える絶好の舞台を見据えて、より一層の努力を積み重ねていく。

  • リオリプレイ:競泳男子200m平泳ぎ決勝

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