紀平梨花:全日本ジュニア選手権の11位から2年でグランプリファイナルの頂点へ。その飛躍の理由を探る

GPファイナルを制す9カ月前まで、精神面での「もろさ」が目立った
今の紀平は「本当にたくさんの失敗をして『もう1度、そういうことにはなりたくない』という思い」でスケートに向き合っている
今の紀平は「本当にたくさんの失敗をして『もう1度、そういうことにはなりたくない』という思い」でスケートに向き合っている今の紀平は「本当にたくさんの失敗をして『もう1度、そういうことにはなりたくない』という思い」でスケートに向き合っている

2018年12月にカナダで行われたグランプリファイナルを制したのは、5カ月前に16歳になったばかりの少女だった。2016年に行われた第36回全国中学校スケート大会では19位。その後もなかなか結果を出せずにいたが、8位に終わった2018年の世界ジュニア選手権を一つのきっかけに覚醒した。2018年は国際大会で優勝を続けた。なぜ一気に輝きを増したのか。原動力は、抜群の身体能力だけではない。2016年からフィギュアスケートと紀平梨花の取材を重ねる『日刊スポーツ』の記者が、その飛躍の理由を読み解く。

2018年12月の全日本選手権では5位発進となりながら、フリーは2本の3回転半をそろえてトップの成績を残し、総合2位まで持ち直した
2018年12月の全日本選手権では5位発進となりながら、フリーは2本の3回転半をそろえてトップの成績を残し、総合2位まで持ち直した2018年12月の全日本選手権では5位発進となりながら、フリーは2本の3回転半をそろえてトップの成績を残し、総合2位まで持ち直した

ザギトワとトゥクタミシェワを抑えて頂点に

照明が落ちた会場に、くっきりと照らされた日の丸が映えた。2018年12月8日(日本時間9日)、カナダ・バンクーバー。世界の実力者6人が集ったグランプリ(以下GP)ファイナルで初優勝を飾った紀平梨花(きひら・りか)は、初々しい表情で君が代を歌った。右に10カ月前の平昌五輪女王アリーナ・ザギトワ、左には2015年の世界選手権女王エリザベータ・トゥクタミシェワ(いずれもロシア)。表彰台の頂上に立った16歳は、女子フィギュアスケート界の勢力図を塗り替えた。

「昨シーズン、その前のシーズンと、本当にたくさんの失敗をして『もう1度、そういうことにはなりたくない』という思いで、試合に臨むことができました」

シニア1年目を無敗で突っ走っていた新しいヒロインは、優勝の要因を過去の失敗に結びつけた。

日本列島が2002年サッカーワールドカップ日韓大会の余韻に浸っていた7月21日、紀平は兵庫県西宮市に生まれた。のちに4歳で始めたスケートのシーズンインは7月1日。2017年6月30日時点で14歳だったため、オリンピック前年の同日時点で15歳という年齢制限を満たさなかった。わずか3週間の差で届かない平昌五輪。必然的に「(2022年の)北京五輪で優勝が夢」と口にするようになった。

同い年で5月生まれのザギトワが、破竹の勢いで平昌五輪へ向かっていた2017−18年シーズン、紀平はジュニアにいた。2016年9月のジュニアGPシリーズ第5戦のスロベニア大会で、国際スケート連盟(以下ISU)公認大会において女子世界7人目のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)に成功。だが2カ月後の全日本ジュニア選手権では11位。2018年3月、ジュニア2年目に初めて世界ジュニア選手権出場(ブルガリア)を決めたが、そこでも8位とふるわなかった。

ジュニア時代、指導を受ける濱田美栄コーチからは「トリプルアクセルの前に『カシャカシャ』とシャッター音を聞くと緊張する。気が弱いから、大事な時に気持ちが引けてしまう」と評されていた。8位だった世界ジュニア選手権では、練習用リンクと本番のリンクが別だったため、紀平は「氷の感覚の違いに対応できなかった」と戸惑いを口にした。フリーで2度挑んだ3回転半は、いずれも1回転半。GPファイナルを制すわずか9カ月前まで、精神面での「もろさ」が目立った。

2017年12月の全日本選手権では2本のトリプルアクセルを決め総合3位に。ただ、年齢制限のため平昌五輪には出場できなかった
2017年12月の全日本選手権では2本のトリプルアクセルを決め総合3位に。ただ、年齢制限のため平昌五輪には出場できなかった2017年12月の全日本選手権では2本のトリプルアクセルを決め総合3位に。ただ、年齢制限のため平昌五輪には出場できなかった

劇的な飛躍の一因は、心配事の対処法を増やしたこと

天真爛漫な日常生活と対照的に、スケートに関しては人一倍繊細。それはシニアを舞台に演技する今も変わらない。劇的な飛躍の一因は、心配事に対処する引き出しを増やしたことにある。GPデビュー戦だった2018年11月の第4戦NHK杯(広島)。ショートプログラム(以下SP)5位から逆転優勝を飾ることになるフリー前の公式練習で、SPの3回転半で転倒していた紀平は、驚きの行動に出ていた。

「(体を空中で)絞めれば跳べるジャンプも、わざと失敗していました」

体に失敗する時のイメージをあえて植えつけ、成功のために必要な滑りの軌道、踏み切り、空中での動き、着氷など、理想の形を頭と体で整理した。さらには各大会の反省を常時記し、スマートフォン内のメモ帳も見返した。

2018年12月の全日本選手権(大阪)SPでも、使い込んだ靴の柔らかさが影響し、3回転半で転倒。まさかの5位発進となりながら、フリーは2本の3回転半をそろえてトップの成績を残し、総合2位まで持ち直した。事前に試行錯誤しながらも、テープを足首に4回巻いて固定することで「これでいいかも」と対処。最近の紀平について、濱田コーチの見方にも変化がある。

「自分の計画どおりにいかなくても、対応能力が出てきた。たとえば直前に縄跳びをしようと思って、縄跳びがなかった時に『エア縄跳び』をするとか。前だったら『どうしよう、どうしよう……ない……ない……』というのが、変わったかな」

2018年12月時点で、今シーズンのISU公認大会における自己ベストは233・12点。ザギトワに次ぐ2位につける
2018年12月時点で、今シーズンのISU公認大会における自己ベストは233・12点。ザギトワに次ぐ2位につける2018年12月時点で、今シーズンのISU公認大会における自己ベストは233・12点。ザギトワに次ぐ2位につける

「どんどん先に行かないと、大きな目標を達成できる自信がない」

繊細さからくる不安さえ消すことができれば、紀平は強い。2018年12月時点で、今シーズンのISU公認大会における自己ベストはザギトワが238・43点(ネーベルホルン杯)でトップ。紀平は233・12点(GPファイナル)と2位につける。3位はジュニアのアレクサンドラ・トルソワ(ロシア)で221・44点。230点を超える地力を、濱田コーチは素直にたたえる。

「バランスがいいんです。柔らかすぎず、硬すぎず、バネもある。上半身も日本人は弱い子が多いけれど、しっかりしている。言われたことをすごく素直にやってくれる子で、小6から中1のころにパッと見て『この子は(トリプル)アクセルを跳べる』と思いました」

1歳9カ月から通った西宮市の幼稚園では跳び箱8段を跳び、紀平は「今でも疲れるまで逆立ち歩きができる」と無邪気に笑う。50メートル走は7秒8。中高校生の「新体力テスト」得点表に換算すると、10点満点の9点に位置づけられる。2018年春にはネット高校を進学先に選び、スマートフォンで授業を受けながら、氷上以外のダンス、バレエなどの時間を有効活用する。スケートに対する情熱は人一倍強い。

目標の2022年北京五輪金メダルへ、紀平は今の立ち位置をこう分析する。

「まだまだなので、10パーセント。オリンピックまでは、あと3年以上ある。ケガがあってもダメだし、まだまだいろいろな危険が迫っている。どんどん先に行かないと、大きな目標を達成できる自信がない。(金メダルに向けたジャンプ構成は)80パーセントぐらい。(残り20パーセントは)4回転だと思います」

大きな注目を浴びても、決して乱れることのない冷静さを備えた16歳。失敗を繰り返さない修正能力を持ち続ける限り、今の紀平に限界点は見当たらない。

文=松本 航(日刊スポーツ新聞社|Wataru MATSUMOTO)

16歳の紀平梨花、来季に向けて4回転ジャンプを練習

16歳の紀平梨花、来季に向けて4回転ジャンプを練習

楽しめましたか?お友達にシェアしよう!