羽生結弦とネイサン・チェンの2019年とは──"4回転5本"の超人的プログラム対決はチェンに軍配

羽生結弦は前人未到の"4回転半"で王座奪還に挑む
現在のフィギュアスケート界を牽引する羽生結弦(左)とネイサン・チェン(右)。ともに歴史に名を残すはずのであろう逸材だ
現在のフィギュアスケート界を牽引する羽生結弦(左)とネイサン・チェン(右)。ともに歴史に名を残すはずのであろう逸材だ現在のフィギュアスケート界を牽引する羽生結弦(左)とネイサン・チェン(右)。ともに歴史に名を残すはずのであろう逸材だ

冬季五輪2大会連続金メダルの羽生結弦(はにゅう・ゆづる)にとって、アメリカのネイサン・チェンは最強の刺客だ。2018年の世界選手権で敗北を喫すると、2019年のグランプリファイナルでは、43.87得点差をつけられ完敗した。王座奪還を掲げる羽生は、前人未到の"4回転半"への挑戦も視野に入れている。

チェンは1999年5月5日、アメリカのソルトレイクシティで生まれた。現在は名門イェール大学の学生との二足のわらじを履きこなす
チェンは1999年5月5日、アメリカのソルトレイクシティで生まれた。現在は名門イェール大学の学生との二足のわらじを履きこなすチェンは1999年5月5日、アメリカのソルトレイクシティで生まれた。現在は名門イェール大学の学生との二足のわらじを履きこなす

超人的なプログラムによる頂上決戦

羽生結弦(はにゅう・ゆづる)とネイサン・チェンのライバル関係が大きな注目を浴びるようになったのは、2019年3月に行われた世界選手権でチェンが直接対決を制し、連覇を果たしたときからだろう。

チェンは平昌五輪で5位と苦杯をなめて以降、心身を一新したかのように出場した大会で無敗を維持。前述とおり世界選手権では、現行ルールにおける世界最高得点、323.42点を羽生の目の前でたたき出してみせた。ソチ五輪、平昌五輪で2大会連続金メダルを獲得し、絶対王者の地位を築いていた羽生にとって、最強の刺客が現れた格好となった。

この敗北を経て迎えた2019シーズンのグランプリファイナル(12月4~8日、イタリア・トリノ)、羽生は「自分のなかではネイサン選手との戦いでしかない」という覚悟を持って臨んだ。ショートプログラム(SP)では、チェンが羽生に12点以上もの差をつける110.38点を記録し、首位発進に成功した。すると逆転を狙う羽生は、フリースケーティング(フリー)でここまで封印していた"4回転5本"を組み込んだプログラムに挑戦することを決意。しかし、4回転こそしっかり決めたものの、その他のジャンプで回転不足やミスが相次いでしまった。

一方、羽生の演技構成に触発されたチェンも、当初は予定していなかった"4回転5本"を完璧に演じ、フリー世界最高の224.92点を記録。超人的なプログラム構成を組んだ2人による頂上決戦は、自身の世界記録を大幅に更新し、羽生より43.87点も高い335.30点をたたき出したチェンに軍配が上がった。

チェンの2019年は1月の全米フィギュアスケート選手権での金メダルでスタート。12月のグランプリファイナルなどでも金メダルを獲得する充実した一年だった
チェンの2019年は1月の全米フィギュアスケート選手権での金メダルでスタート。12月のグランプリファイナルなどでも金メダルを獲得する充実した一年だったチェンの2019年は1月の全米フィギュアスケート選手権での金メダルでスタート。12月のグランプリファイナルなどでも金メダルを獲得する充実した一年だった

攻めの姿勢でチェンがたたき出した世界最高得点

グランプリファイナルでは羽生に圧勝したチェンだが、彼がフリーで4本以上の4回転ジャンプを組み込んだのは、2018年の世界選手権以来のことだった。

2019シーズンのグランプリシリーズでは、2勝したもののそこまで調子が良かったわけではない。初戦のスケートアメリカ、続くフランス杯ともに290点台と、彼にとっては低いスコアにとどまっていた。なかでも4回転ルッツは安定感を欠き、スケートアメリカのSPでは、着氷はしたもののGOE(出来栄え点)の加点は0.82点。フランス杯のフリーでは、4回転ルッツ+3回転トーループが着氷を乱して単発になった。

グランプリファイナルで5本の4回転を完璧に跳ぶには、プログラム全体の構成を考え直し、いかに一つひとつのジャンプで体力や精神力を消費しないようにできるか突き詰める必要があった。チェンのコーチを務めるラファエル・アルトゥニアンは、4回転サルコーの安定感が出るまでは、5本の4回転を組み込むことを止めようとしていたという。SPを終えた時点で羽生とは12点以上の差がついており、リスクを冒す必要はなかった。

しかし、チェンは果敢に"4回転5本"に挑んだ。その結果、フリーでは9人の審査員がつけたGOE108項目のうち、19項目で+5ポイント、45項目で+4ポイントの評価を受け、世界最高得点での3連覇を手繰り寄せた。

2020年3月、カナダのモントリオールで行われる世界選手権でも連覇を狙う王者に油断はない。羽生の挑戦を堂々と受けて立つ構えだ。

2019年10月、羽生はフィギュアスケート・グランプリシリーズ第2戦となるスケートカナダで212.99点という高得点をたたき出し優勝を果たしている
2019年10月、羽生はフィギュアスケート・グランプリシリーズ第2戦となるスケートカナダで212.99点という高得点をたたき出し優勝を果たしている2019年10月、羽生はフィギュアスケート・グランプリシリーズ第2戦となるスケートカナダで212.99点という高得点をたたき出し優勝を果たしている

羽生は5年ぶりに日本勢との戦いに敗北

2019シーズンのグランプリシリーズの戦いぶりで安定感を保っていたのは、羽生だった。特にSPは、スケートカナダとNHK杯の2戦とも「まだ完璧ではない」と不満を口にしながらも、109.60点、109.34点と高得点を記録した。スケートカナダのフリーでは3種類4本の4回転を成功させ、総合322点台をマーク。ケガなくグランプリシリーズ2戦を終えられたことで、「壁を一つ越えられた」と話していた。

ただし、迎えたグランプリファイナルでは、自信を持って臨んだはずのSPでミスが出て、チェンに大差をつけられた。フリーでは挽回を期して5本の4回転ジャンプを入れる構成に挑んだが、用意はしていたものの練習の少なさを露呈し、演技全体の精彩を欠いてしまった。羽生は「ジャンプ大会のようだった」と振り返り、4回転ジャンプを多く飛ぶあまりに疲弊し、一つひとつの演技の評価を落としてしまったことを敗因に挙げた。

2019年12月の全日本選手権で、羽生は宇野昌磨(中央)に逆転を許す。5年ぶりに日本勢との戦いに敗れ銀メダルに終わった
2019年12月の全日本選手権で、羽生は宇野昌磨(中央)に逆転を許す。5年ぶりに日本勢との戦いに敗れ銀メダルに終わった2019年12月の全日本選手権で、羽生は宇野昌磨(中央)に逆転を許す。5年ぶりに日本勢との戦いに敗れ銀メダルに終わった

グランプリシリーズからの連戦で、肉体的にも精神的にも疲労が残ったまま、調整不足の状況で臨んだ2019年12月の全日本選手権。羽生はSPをトップで終えながら、フリーでミスを連発して宇野昌磨に逆転を許し、実に5年ぶりに日本勢との戦いに敗れた。

羽生にとっての2020年上半期は、敗北を拭い去るべく、2月の四大陸選手権、そして3月の世界選手権に挑むこととなる。まずは体をしっかりと休め、各要素の質を高めて得点を重ねること。2019年12月7日に25歳となった羽生は、昨年から取り組む前人未到の"4回転半(クワッドアクセル)"、さらに"5回転ジャンプ"への挑戦も視野に入れている。「打倒チェン」、そして王座奪還へ、羽生の闘志は消えてはいない。

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