「阿部一二三」東京オリンピック2020の顔、そして柔道界の顔へ

注目選手の1人、阿部一二三選手
注目選手の1人、阿部一二三選手注目選手の1人、阿部一二三選手

「日本のお家芸」と言われる柔道。過去のオリンピックでもっとも多くの金メダルを獲得している種目であり、2020年の東京五輪でも多くのメダルが期待されている。そんな世界屈指の猛者揃いの日本柔道において、今もっと金メダルに近いと言われているのが、男子66kg級の阿部一二三だ。

今、もっとも金メダルに近い男「阿部一二三」

2020年のオリンピック開催が東京に決まると、日本ではその舞台で活躍が期待される各競技の新星に、一斉にフォーカスが当てられた。世界中から絶賛されたリオデジャネイロ五輪閉会式での東京のプレゼンテーション。そのPR映像には、将来を嘱望される選手たちが多数起用され、4年後への期待を膨らませるのに一役買った。

阿部もその映像に出演した選手の一人だ。東京五輪を2年後に控えた今、既に王者としての実績を持ち、その風格を漂わせている。

9月にアゼルバイジャンの首都バクーで開催された柔道世界選手権大会で、阿部は優勝し、堂々の2連覇を達成した。4試合中3試合が一本勝ち。唯一、一本勝ちを逃したリオデジャネイロ五輪銀メダルの安バウル(韓国)との準決勝では、延長に突入すると、慎重に間合いを詰めながら、勝負どころを見極めるという、従来とは異なるスタイルで、技ありを奪い、優勢勝ちを収めた。続くエルラン・セリジャノフ(カザフスタン)との決勝では、得意の背負い投げや、担ぎ技ではなく、豪快な内股による勝利だった。

常に積極的に間合いを詰め、豪快かつ鮮やかに相手を投げ倒すのが阿部の持ち味。一本にこだわる攻撃的なスタイルは、見る人に柔道の醍醐味を伝えるものだが、次第に他国の選手たちに研究され、勝ち続けることが容易でなくなってきていた。7月に行われたグランプリ・ザグレブの準々決勝で約3年ぶりの敗戦。

国際大会での連勝が34でストップしていた。しかし、緻密な試合運びと新たな得意技という、二つの新しい引き出しによって成し遂げた今大会の優勝は、圧倒的な強さはもとより、2020年へ向けて底知れぬ可能性を感じさせるものであった。

夢への実現へ一歩、二歩、三歩

1997年8月9日神戸市生まれの21歳。「一歩ずつ、着実に育って欲しい」との願いから「一二三」と名付けられた。柔道を始めたのは6歳の時。最初は気弱で負けてばかりだったが、人一倍の努力を重ねることで、その名の通り着実に強くなっていく。中学時代は全国大会を2連覇。

アジアユースでも優勝するなど、急成長を遂げて、この時点で既に「将来の日本のエース候補」という声も聞こえてくるようになった。小学校から出稽古に通っていた地元の神港学園高等学校に進学後もその勢いは止まらない。入学と同時に階級を60kg級から66kg級に上げ、全日本カデ柔道体重別選手権で優勝し、17歳以下の世界一を決める世界カデ柔道選手権大会では準優勝に輝いた。

また、この年の全国高校選手権も優勝を勝ち取った(66kg級が設置されていないため73kg級で出場)。翌年も全日本カデ、インターハイ、全日本ジュニアの国内の主要な大会を圧倒的な強さで優勝、世界ジュニアでは個人では準優勝、団体では全試合に勝利して、優勝に貢献した。

また、11月に行われた講道館杯全日本柔道体重別選手権大会では、石井慧以来10年ぶり4人目となる高校生での優勝を成し遂げた。

グランドスラム東京2014で金メダルを獲得
グランドスラム東京2014で金メダルを獲得グランドスラム東京2014で金メダルを獲得

そして、世界デビューとなった2014年のグランドスラム・東京。世界の強豪を相手に快進撃を続け、準決勝では世界選手権3連覇、ロンドン五輪銅メダリストの海老沼匡を撃破。その勢いのまま決勝も勝利を収め優勝に輝いた。男子では史上最年少となるグランドスラム大会の制覇で、阿部一二三の名前は世界中に知れ渡ることとなる。その圧倒的な強さから、国際柔道連盟からも「神童」と評され、まさに順風満帆な道のりだった。

かねてから公言していた目標は、前人未到のオリンピック4連覇。その一歩として、リオデジャネイロ五輪ヘ向かうはずだった。しかし、オリンピックを翌年に控えた2015年に、阿部の快進撃がストップする。代表選考を兼ねた講道館杯の三回戦でまさかの敗退。これが大きく響き、リオデジャネイロ五輪への出場は夢と消えてしまった。しかし、この経験によって阿部は大きく成長することになる。

日本体育大学に進学して迎えた2016年の全日本体重別選手権。阿部はその成長を垣間見せた。準決勝で海老沼に再び勝利、決勝でも講道館杯で敗れた相手を下して初優勝。翌年のグランドスラム・パリでも優勝し、ハンガリーのブダペストで行われた世界選手権で見事に優勝を勝ち取り、初の世界チャンピオンに輝いた。

一本を狙う阿部一二三
一本を狙う阿部一二三一本を狙う阿部一二三

いざ、オリンピックの頂点へ

いよいよオリンピックが視界に入ってきた。もちろん阿部自身もしっかりと東京五輪を見据え、歩みを進めているに違いない。10月22日付の世界ランキングは1位。同じく1位の女子52kg級で活躍する3歳年下の妹、阿部詩(うた)とともに、オリンピックを目指す。

世界選手権2連覇ということもあり、ライバルからのマークや周囲の期待からくるプレッシャーも当然、今まで以上に厳しくなるだろう。しかし、今はそんな重圧をも力に変えるメンタルの強さを持っている。当面の目標は東京で行われるグランドスラム。優勝すれば、来年の世界選手権の出場権を獲得することができ、オリンピック出場が現実味を帯びてくる。日本が誇る正真正銘のエース。王国の復権を目指す日本柔道にとって、阿部一二三は欠かせない存在になるだろう。

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