スポーツクライミング:高くそびえる壁に挑む精鋭たち...東京五輪の新種目は3つの合計点競う

日本は5年連続世界ランク1位のボルダリング強豪国
スポーツクライミングの歴史は意外に長い。世界選手権やワールドカップも行われている
スポーツクライミングの歴史は意外に長い。世界選手権やワールドカップも行われているスポーツクライミングの歴史は意外に長い。世界選手権やワールドカップも行われている

東京五輪で追加種目となったスポーツクライミングは、「リード」「スピード」「ボルダリング」の3種目の合計点で順位が決まる。日本は男女ともにボルダリングで圧倒的な強さを誇っている。身体能力だけでなく、集中力や精神力も求められる競技で、日本のクライマーたちがメダル獲得をめざす。

自然のなかでの「崖登り」が競技へと進化

近年、スポーツジムや大型ショッピングセンターなどでカラフルな突起物がついた人工の壁を目にすることが増えてきた。都心にいながらも気軽に岸壁登りの気分を味わえるクライミングはここ数年で一躍人気スポーツとなり、趣味として楽しんでいる人も多い。現在は国内に500を超えるクライミングジムが存在していると言われている。

オリンピックでの採用は東京五輪が初めてとなるが、競技の歴史は意外と古い。その起源は1940年代後半から1980年代のソビエト連邦にさかのぼる。当時のソ連は自然の岩場を登るスピードを競っていた。1985年にはイタリアの岩場で、その後フランスでは室内に設置されたクライミング用のウォールで、と徐々にヨーロッパ諸国に普及し、競技会が定期的に開催されるようになっていった。

日本やアメリカでは1990年代以降に大会が開かれるようになり、現在も行われているW杯や世界選手権がスタートした。当初は「リード」「スピード」の2種目のみが実施されていたが、90年代後半には「ボルダリング」も追加され、現在の3種目へとつながった。

東京五輪では「リード」「スピード」「ボルダリング」の合計点を競う

通常はこれらの3種目が単一に実施されるが、東京五輪のスポーツクライミングでは「コンバインド」、つまり全種目の合計点で順位を競う。各選手によって得意種目は異なるため、最後まで目が離せない白熱した試合展開が予想される。

「リード」は6分の制限時間内に、高さ15メートル以上の壁をどこまで登れるか、高度を競う種目だ。持久力はもちろんのこと、ペース配分を支える技術力や戦略性も問われる。選手たちは安全のためロープを装着するが、登るためには道具を使わない。途中で落下してしまった場合、再挑戦は不可。その地点が最終記録となる。

「スピード」はその名のとおり速度を争う種目だ。ロープがあらかじめ設置されている壁の高さは15メートル、角度は95度で、世界共通のルートが設定されている。瞬発力がカギとなる一方で、2人のクライマーが隣り合わせで競うことになるため、集中力も重要となる。ただし、気持ちが焦るあまりフライングしてしまった場合は一発で失格となるため、冷静さを欠いてはいけない。

最も知名度の高い「ボルダリング」は、高さ4メートルの壁に設置された難度の高いコースを、4分間という制限時間内にいくつ登れるかで勝負が決まる。選手たちは当日初見のコースの攻略法を瞬時に考えながら登り、壁のトップを両手で保持することができたら「完登」として認定される。ロープを使わずに挑むが、途中で落ちても再挑戦が可能。頭も体もフル稼働させることが求められるため、「体を使ったチェス」との異名を持つほどだ。

「ボルダリング」と「リード」は他選手の競技を見ることが大きなアドバンテージとなるため、競技前の選手は隔離される「オンサイト方式」がとられる。選手たちは競技開始直前に、数分間のみコースを見ることが許されている。

「スピード」はその名のとおり速度を争う種目。瞬発力がカギとなる
「スピード」はその名のとおり速度を争う種目。瞬発力がカギとなる「スピード」はその名のとおり速度を争う種目。瞬発力がカギとなる

強豪国はアルプス山脈に囲まれた国々

クライミング競技において強豪国として知られてきたのは、フランス、イタリア、ドイツ、オーストリア、スロベニアなどのヨーロッパ諸国だ。雄大なアルプス山脈を擁する国々が伝統的に強さを発揮してきた。

なかでもクライミング界のレジェンドとして広く知られているのが、キリアン・フィッシュフーバー(オーストリア)だ。2014年を最後に競技からは引退しているが、ボルダリング種目でW杯を何度も制覇しており、今もファンの間でリスペクトされる存在だ。キリアンの妻、アンナ・シュテールも圧倒的な強さを誇る。過去のW杯の女子ボルダリングで何度も優勝に輝いた大スターだ。クライミング界の最強カップルは世界中で人気を集めている。

日本の選手層も非常に厚く、特にボルダリングでは決して諸外国に引けをとらない。これまでは練習施設の不足などが課題となっていたが、近年のブームに後押しを受け、練習環境も改善されてきた。あまり知られていない事実だが、同種目ではW杯のナショナルランキングで2位のスロべニアに大差をつけ、5年連続で1位を獲得する強豪国なのだ。

日本のクライミング界をけん引してきたのは、2019年の5月30日に30歳となるの野口啓代(あきよ)だ。2008年に日本人女子として初のW杯優勝を達成すると、年間総合優勝も4度経験した。第一人者だけに東京五輪へ寄せる思いも強い。

クライミング界のレジェンドとして知られるキリアン・フィッシュフーバー。数々の栄冠を手にした
クライミング界のレジェンドとして知られるキリアン・フィッシュフーバー。数々の栄冠を手にしたクライミング界のレジェンドとして知られるキリアン・フィッシュフーバー。数々の栄冠を手にした

日本勢は得意のボルダリングを生かし表彰台を狙う

日本がトップクラスの実力を誇るボルダリングでは、野口以外にも世界トップクラスの選手が少なくない。男子では1996年6月22日生まれの楢﨑智亜(ならざき・ともあ)が2016年の世界選手権で、日本人初優勝を飾り一躍ヒーローとなった。1999年5月13日生まれの弟、明智(めいち)も、兄に刺激を受け2018年11月のアジア選手権、オリンピックと同じ形式の複合で初優勝を飾るなど、兄弟そろって波に乗っている。特に智亜は東京五輪を見据え、「3種目をまんべんなく練習する」ことに力を注いでいるだけに、金メダル獲得に近い存在と期待されている。

2018年夏にインドネシアで行われたアジア競技大会で2位に入った藤井快(こころ)も、表彰台を狙える逸材だ。2016年、2017年にはボルダリング・ジャパンカップを連覇し、W杯でも4度の優勝を成し遂げてきた。自身も2020年は「人生の大きなピークと捉えている」と発言するなど、並々ならぬモチベーションを抱いている。

女子でも野口をはじめ、国際舞台ですでに抜群の存在感を発揮している選手が多い。1997年5月21日生まれの野中生萌(みほう)はニューヒロインとして注目を集める。2018年のW杯のボルダリング年間女王に君臨した彼女は、バレエや器械体操で培った柔軟性と日本人離れした筋肉を武器に、ダイナミックなクライミングを見せてくれる。自身がクラウドファンディングで資金の一部を募り、東京都豊島区と連携して立教大学のキャンパス内にスピードクライミング壁を設置。その壁を利用してスピード種目などの練習に励む。「たくさん練習をして2020のオリンピックまでがんばりたい」と気合十分だ。

ボルダリングだけでなく、スタミナが求められるリード種目にも世界をリードする日本人クライマーがいる。たとえば是永敬一郎は2017年W杯のリードで金メダルを獲得。静岡市内のクライミングジムで働く二足のわらじを履く生活を送りながら、東京五輪出場を狙っている。

東京五輪の舞台で壁を登れるのは男女20名ずつの計40名のみ。国と地域別の出場枠は最大2枠で、2019年に行われる世界選手権の上位7選手や、各大陸選手権の優勝者などが出場権を得られる予定だ。精鋭たちが一堂に会するスポーツクライミングは、江東区の青海アーバンスポーツパークで開催。2020年8月4日(日)に男子、翌5日(月)に女子の予選が行われ、中一日をはさみ7日(水)に男子決勝、8日(木)に女子決勝が行われる。

野口啓代(中央)は日本のクラミング界をリードしてきた先駆者。東京五輪出場の有力候補だ
野口啓代(中央)は日本のクラミング界をリードしてきた先駆者。東京五輪出場の有力候補だ野口啓代(中央)は日本のクラミング界をリードしてきた先駆者。東京五輪出場の有力候補だ

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