フィギュアスケートコーチのブライアン・オーサー、エフゲニア・メドベージェワを「温かく見守って」

練習拠点をロシアからカナダに移した後、グランプリファイナルへの出場を逃してしまったエフゲニア・メドベージェワ。しかし、世界2連覇を成し遂げた元女王のコーチは、変化に順応するには時間が必要と考えている。

現役時代にオリンピック2大会で銀メダルを獲得し、フィギュアスケートの指導者として世界的名声を博しているブライアン・オーサーは、ロシアのエフゲニア・メドベージェワを「温かく見守って」と訴えた。

同じくオリンピックで2つの銀メダルを手にしているメドベージェワは、12月19日に開幕するサランスクでのロシア国内選手権で厳しい戦いに挑むことになる。

彼女を待ち受けているのは、オリンピックの覇者アリーナ・ザギトワ、2015年の世界女王エリザベータ・トゥクタミシェワ、そしてアレクサンドラ・トゥルソワソフィア・サモドゥロワの両新星など強力なライバルたちだ。

「どんな選手でも、すべてに順応するまで1年半から2年はかかると思っています」。オーサーはOlympic Channel ポッドキャストにそう語った。

「皆さんには温かく見守っていただきたいですね。いずれ最高の状態に、本当に素晴らしい状態になりますが、瞬時に解決できる方法などないのです」

ソチ2014アイスダンスの金メダリスト、メリル・デービスと様々な話題について語り合ったオーサーは、羽生結弦のケガや、欧州選手権に臨むハビエル・フェルナンデスの使命についても話してくれた。

新しい文化

メリル・デービス:北アメリカに初めて来るような選手を指導する際、彼らを文化的に理解することが関係構築の第一歩になることが多いのでしょうか?

ブライアン・オーサー:個人的には、そうですね。言うまでもなく、各選手の文化的背景を理解した上で指導しなければなりません。コーチングチームとして、選手に応じてアプローチすることは私たちの責任でもあります。「私のやり方に従えないなら出て行け」という姿勢ではありません。それにハビ(フェルナンデス)とユヅ(羽生)のことを考えれば、2人の文化的背景は全く異なります。しかも今では、エフゲニア・メドベージェワも私たちと一緒にトレーニングしています。彼女はロシア のシステムで育った選手であり、これまで大きく成長し、世界選手権を2連覇するなど結果を残しています。ジュニア時代から素晴らしいスケーターでした。

彼女は練習拠点をこちらに移しただけでなく、大人の女性になろうとしています。女子のスケーターといえば、カロリーナ・コストナーやキム・ヨナ、安藤美姫といった選手たちを思い浮かべるでしょうし、これらの素晴らしい女性たちもそういった時期を乗り越え、この競技の発展に寄与してきました。ケイトリン・オズモンドもそうです。成長途中の微妙な時期なんですよ。

そうですね。確かに難しい時期ですが、うまく乗り切ることができれば素晴らしい成果に期待できます。

ええ、私たちももう少しというところですが、時間がかかるものなんです。とはいえ、成長期を乗り切ることが女子スケート界には必要だと思っています。女子フィギュアスケート界のレベルと競争力を高めなければなりませんし、今はまだ実現できていませんが、それこそ私がやるべきことなのです。

スケートカナダでのエフゲニア・メドベージェワ
スケートカナダでのエフゲニア・メドベージェワスケートカナダでのエフゲニア・メドベージェワ

とあるインタビューで、環境を変えたエフゲニアが落ち着くまで2年はかかるとお話していましたね。その理由は何でしょうか? なぜ2年なのでしょう? エフゲニアにはどのようなアプローチを採っていますか?

どんな選手でも、すべてに順応するまで1年半から2年はかかると思っています。しかしおもしろいことに、あるスケート連盟や関係者には「うちのスケーターを預かってもらえませんか?」と言われるんです。

彼らは私が魔法の杖を持っているとでも考えていて、ソーシャルメディアでは誰もがこんなことを言うんです。「○○と○○を見に行くのが楽しみ。ブライアンのチームで1カ月も指導を受けているからね!」と。私は「まさか!?」と言うしかありません。文字通りにすべてを噛み砕いて説明し、一つひとつのピースを組み直さなければなりませんからね。

すでに多くの成功を収めているスケーターの場合、特にそうですよね。これまでの習慣を変えることは、最も難しい作業になると思います。

そうですね。まさしく最大のチャレンジです。簡単なことではありませんが、選手が前向きに取り組み、受け入れてくれれば問題はありません。いずれにせよ1年半から2年は必要ですし、皆さんには温かく見守っていただきたいですね。

いずれ最高の状態に、本当に素晴らしい状態になりますが、瞬時に解決できる方法などないのです。

羽生結弦とハビ・フェルナンデスの絆

練習環境や(羽生結弦とハビ・フェルナンデスの)サポートし合える関係、チーム内で彼らが果たしている役割や、それぞれの成長にどう寄与し合っているのかについても、少し聞かせください。

ご存知のように、スケーターには練習パートナーがいて、違う国の選手と組むこともあります。そして一定のレベル、一定の基準に達した選手は、コーチやライバル、他の選手と共に一種のコミュニティを形成します。

パートナーがライバルであっても関係ありません。互いを奮い立たせ、サポートし合います。選手それぞれの目標は違いますけどね。それでも彼らは助け合えるようなレベルに達しているんです。新たに加わる他の選手たちにとっては最高の見本ですね。新参者やジュニアの選手たちでも理解できます。そして同じコーチの下、同じチームに所属することで、自分もトップスケーターになれることを悟るんです。

キーワードは「リスペクト」ですね。

選手たちはとてもリスペクトし合っています。1カ月か1カ月半ほど前、練習中に興味深いことがありました。ユヅが上を見ながら立ち止まってしまったので、私は思わず「どうしたんだ?」と聞きました。私たちのリンクには、ここで練習した選手たちの国旗を掲げてあるんですが、彼はスペイン国旗の下に立っていました。「大丈夫か?」と聞くと、彼は「ハビがいなくて寂しい」と言ったのです。私は「おいおい!」という感じでした。

素敵な話ですね!

彼は新シーズンに向けてギアを上げています。オリンピックで2つ目の金メダルを手に入れたというのに、「そのモチベーションはどこから生まれてくるんだろう?」と考えてしまうほどですね。

絶対王者の新たな目標

並大抵の選手ではオリンピック連覇を成し遂げることはできませんし、その後も新しい挑戦を続けたいという強い意欲があるなんて、とにかく素晴らしいとしか言いようがありません。

今後も自分自身を奮い立たせるために、彼はこんなことを口にしていました。本人の言葉なのですが、史上初めて4回転アクセルを成功させた選手になりたいと。とても難しい課題だと思いますが、それを飛べるのは彼しかいないでしょう。再びケガをしたため、回復途中の現在はその挑戦も後回しになっていますが、本人は極めて意欲的です。それが彼を突き動かす原動力になっています。

そんなチャレンジに取り組む彼を見守り続けることができるなんて、間違いなく私たちは幸せだと思います。

希代のスターと共に、言うなればこの「サーカス」の一員であることを私も楽しんでいます。実際にトライするのは彼ですが、楽しみですね。私は傍から見守るだけですが、それでもワクワクしてきます。(キム・)ヨナやハビとも同じような体験をしていますが、ユヅのレベルは成層圏レベル。しかもあれだけのスターですから。

キム・ヨナをも上回ると?

ええ、そうですね。間違いなくそう思います。キム・ヨナの センセーションと「女王ヨナ」には驚かされましたが、今ではユヅとプーさんに驚嘆するばかりです。

ユヅの負傷

残念ながら、羽生選手は足首の負傷で離脱しています。おそらく、2018年冬季オリンピック開幕前と同じ箇所を痛めたのだと思いますが、状態はいかがですか? 実戦に復帰できるのはいつ頃でしょうか?

同じ足首ですし、前回のケガと似ています。完全に同じではありませんが、いずれにせよ負傷したことに違いはありません。このケガを克服できる人がいるのなら、それは彼だと思いますね。本人も今シーズン中の復帰だけを考えています。復帰には時間がかかるかもしれませんが、昨年の経験があるからこそ、ユヅがメディカルスタッフのアドバイスすべてに耳を傾けていることは重要です。

復帰を焦るあまりに、リンクに戻るのが早すぎて再び負傷する選手もいます。しかし昨年の経験があるからこそ、彼はメディカルスタッフを信頼しています。仮にもう少し時間がかかるとしても、シーズン終盤にコンディションが整っているなら、それも選択肢になるということです。……正直なところ、(ケガについて)私が知っていることは多くありません。

間違いなく最高のサポートチームがついていますよね。

素晴らしいチームが彼を支えていますし、私も信頼しています。詳しいことは私にはわかりませんが、最高の体制が整っているはずです。そのことについては、時機を見て本人とも話し合うつもりです。今は常に彼のそばにいて、復帰をサポートしているだけですね。

史上初の4回転アクセル成功は彼の大きな目標の一つとおっしゃっていましたね。それを成功させたいからこそ、心身共にトップフォームでありたいと。私たちも心から応援しています。

すべての原動力ですからね。4回転アクセルを成功させることは、彼にとって究極の目標であり、すべてなんです。

世界が違いすぎますね。あんなことができる選手は何を考えるのか、私には想像さえできません。

ハビとチャ・ジュンファン

ハビエル・フェルナンデスが2019年の欧州選手権出場を決めたそうですね。

そうだね! ただ彼のモチベーションになったのは……もう一つタイトルを獲得すること。つまり7度目の戴冠と(エフゲニー・プルシェンコの)最多優勝記録に並ぶことなんです。とにかく、挑戦しようという彼を誇りに思いますし、真剣に取り組んでいるので期待しています。3週間のトレーニングでどこまでできるのかを見届けたいですね。

フィギュアスケート界のスターと言えば、韓国の新星チャ・ジュンファンもあなたの指導を受けています。グランプリファイナルでキム・ヨナ以来の韓国人メダリストとなった彼についても、少しお話しいただけませんか? いずれはトップに立てる逸材だとお考えですか?

彼は特別な選手で、ジュニア1年目から指導しています。ボタンのように小さく可愛い少年で、トロントに渡ってキム・ヨナの後に続きたいという意欲に満ちていました。(チャは)私たちのあらゆる指導や練習に対してオープンで、これまで韓国で教わっていたこととは違うにもかかわらず、すべてを受け入れてくれました。

今では成長し、子供から少年になろうとしています。(身体的に)しっかりしてきましたが、スケートも上達してきました。昨年は急速に成長し、その影響から調子が安定しない時期もありましたが、対策を用意していましたし、そこを切り抜けた後は歯車が噛み合うようになりました。あらゆるアイディアに耳を傾け、著名な振付師と協力し、一緒に作品を作り上げていこうとする彼をとにかく誇りに思います。まさしく希望の星ですね。今後の活躍に期待しています。韓国ではビッグスターになりつつあり、それはそれで嬉しいのですが、そんな変化にうまく対応できるよう、手を貸していかなければいけないと思っています。

お忙しいところお時間をいただき、本当にありがとうございました。2018年も残り少なくなりましたが、今後のさらなるご活躍をお祈りしています。

ありがとう。

Olympic Channelポッドキャスト、今週のゲストはブライアン・オーサーでした。

Olympic Channelではアスリートが進行役を務め、人気アスリートとオリンピックについて語り合う番組を毎週お届けしています。

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