フィギュアGPファイナル王者のチェンと女王コストルナヤはトップに居続けられるか?

GPファイナルの結果から見えてくる現在の勢力図は?
GPファイナルの結果から見えてくる現在の勢力図は?GPファイナルの結果から見えてくる現在の勢力図は?

フィギュアスケートの2019年グランプリ・ファイナルは12月8日(日)のエキシビションで華麗に幕を閉じた。

惜しくもネイサン・チェンに敗れて銀メダルとなった羽生結弦は、2018年平昌オリンピックで金メダルに輝いた後のエキシビションと同じ白鳥の湖で登場し、トリノに集まった多くのファンを魅了した。

残念ながら、平昌オリンピックの女子金メダリストであるアリーナ・ザギトワは怪我のためにエキシビションに参加することができなかった。ロシアの女王はパラベラ競技場の観客に向かい、「本当にごめんなさい。昨日のジャンプで着地したときに足を痛めてしまい、今日のショーに出ることができません。ですけど、皆さんの声援と励ましにとても感謝しています」と挨拶した。

ザギトワは土曜日のフリースケーティングで順位を2位から6位に落とした。彼女のトレーニングパートナーであり、祖国ロシアでトゥトベリーゼに師事する「チーム・トゥトベリーゼ」と呼ばれるアリョーナ・コストルナヤ、アンナ・シェルバコア、アレクサンドラ・トルソワの3人が表彰台で金銀銅のメダルを独占した。

それ以外にこの3日間で私たちは何を見ただろうか?

世界最高峰の戦いで輝いた『ロケットマン』

羽生結弦とネイサン・チェンがハイレベルな争いを展開している
羽生結弦とネイサン・チェンがハイレベルな争いを展開している羽生結弦とネイサン・チェンがハイレベルな争いを展開している

今シーズンを見る限り、男子王座を争う戦いはますます厳しいものになってきているようだ。

羽生結弦が全身全霊をかけたパフォーマンスを見せたにもかかわらず、万全の滑りを見せたネイサン・チェンが悠々と金メダルに輝き、ケヴィン・エイモズは自身最高の滑りを2回成功させて銅メダルに食い込んだ。

チェンはトリノで生涯ベストとも言える滑りを2回続けて成功させ、オリンピック2連覇の羽生に44ポイント差をつけて優勝。ショートプログラムでかつて羽生が出した世界記録に僅差に迫った。その後で滑った羽生はコンビネーションが乱れ、出遅れた。13ポイント差を羽生につけたチェンだったが、フリースケーティングが行われたこの日は、25歳の誕生日を迎えた羽生への観客の大声援を聞きながら出番を待たなくてはいけなかった。

羽生は直前になって構成に入れた4ルッツを含む5回の4回転を成功させる。だが、そこで体力を使い果たしたせいか、最後の3回転アクセルの連続技に失敗し、終盤がやや乱れてしまった。

一方で、2度の世界チャンピオンに輝いているチェンは、映画『ロケットマン』に使われたエルトン・ジョンの曲を活かした演目を完璧にこなし、5回の4回転を見事に成功。前日のショートプログラムとの合計で、自身が持つ世界記録を更新した。

羽生は3月の世界選手権において4回転アクセルへの挑戦を表明し、実際に練習では試している。だが、イエール大学2年目で学業とスケートを両立しながらも好調を維持するチェンに差を付けられてしまっている。

コストルナヤが4回転ジャンパーに辛勝も、今後は女子も4回転がカギ

女子の表彰台はチーム・トゥトベリーゼが独占
女子の表彰台はチーム・トゥトベリーゼが独占女子の表彰台はチーム・トゥトベリーゼが独占

女子フィギアスケート界の勢力図はこの2年間で大きな変化を遂げた。そして現在は、合計年齢わずか46歳の3人の少女がこの競技で世界のトップを独占している。

フリースケーティングでは2位だったアリョーナ・コストルナヤは、ショートプログラムとの合計で世界記録を叩き出し、金メダルを獲得した。コストルナヤはまだエテリ・トゥトベリーゼに師事する3人のシニア部門1年生の1人に過ぎず、4回転を身につけていない。来年3月のモントリオールで行われる世界選手権では他の2人に女王の座を譲るかもしれない。

銀メダルのアンナ・シェルバコアと銅メダルのアレクサンドラ・トルソワはともに4回転をフリースケーティングで成功させ、競技中に4回転トウループ・フリップを成功させた初の女子選手でもある。

世界ジュニア・チャンピオンに2回輝いたトルソワはチェンや羽生と同じく5回の4回転に挑戦した。ただ、4回転サルコウに失敗し、着地に成功したのは3回だけだった。シェルバコアは4回転ルッツに成功し、4回転フリップで転倒しながらも、フリースケーティングではコストルナヤを上回った。

もしトルソワとシェルバコアがすべての4回転ジャンプを成功させていたとしたら、彼女らの技術点はさらに大きくなり、3回転アクセルのみのコストルナヤに対して有利になっただろう。トルソワにとってはショートプログラムでの転倒が金メダルを逃す原因となった。今後の課題が明らかになったと言うべきなのだが、トルソワ自身はトリノの表彰式では愛犬ティナを抱いて満足そうな表情を浮かべていた。

3回転アクセルの女王と呼ばれる紀平梨花は練習では4回転サルコウを成功させていたが、本番では失敗してしまった。それでも、昨年度グランプリ金メダリストの紀平はショートプログラムの6位から持ち直して、4位まで順位を上げる健闘を見せた。紀平はロシアの3人を脅かす最大の存在だと思われるものの、モントリオールでメダルを獲得するにはすべてのジャンプの精度を上げる必要があるだろう。

米国のブレイディ・テネルはトリノでは素晴らしい滑りで5位に入賞した。ただし、3回転アクセルも4回転を持たない彼女は今のままではメダルに挑戦するのは難しい。

同じことはショートプログラムでは2位に入ったアリーナ・ザギトワにも言える。だが、フリースケーティングになるとザギトワはジャンプをことごとく失敗し、6位に終わった。「キス&クライ」で得点を見届けると、ザギトワの表情は固くこわばったままだった。17歳のザギトワは3月にさいたま市で行われた世界選手権で優勝したが、世界選手権では1国から3人の競技者しか出場できないため、来年は連覇どころか出場できない可能性さえある。

未来は明るい

「チーム・トゥトベリーゼ」にはまだ世界を脅かす才能が育っている。カミラ・ワリエワもその1人だ。

13歳のワリエワは女子ジュニア部門で金メダルを獲得し、トレーニング仲間で同じく13歳のダリア・ウサチョワは銅メダルを獲得した。全米チャンピオンのアリサ・リュウが銀メダルで間に入った。

リュウはショートプログラムで首位に立ったものの、フリースケーティングでは2回の4回転ルッツと2回の3回転アクセルにことごとく失敗し、若さゆえの不安定さを露呈した。

怪我から回復したばかりのワリエワは予定していた4回転トウループを封印。それでも安定した滑りでショートプログラムの4位から挽回した。彼女が記録した207.47点はシニア部門4位となった紀平の得点からわずかに9点低いだけだ。ワリエワの勝利によって、ロシアはこれでグランプリの女子ジュニア部門を10連覇したことになる。さらに驚くべきことに、「チーム・トゥトベリーゼ」だけで6連覇している。

男子ジュニアでは佐藤駿が圧巻の滑り
男子ジュニアでは佐藤駿が圧巻の滑り男子ジュニアでは佐藤駿が圧巻の滑り

男子ジュニア部門では日本の佐藤駿が自身最高の滑りで金メダルを獲得した。

佐藤はショートプログラムでは3位だったが、フリースケーティングでは4回転ルッツと2回の4回転トウループを成功させる会心の滑りを見せた。佐藤がフリースケーティングで挙げた177.86はジュニア世界新記録であり、シニア部門の銅メダリストであるケヴィン・エイモズとわずかに1点差だ。また、合計点255.11もジュニア部門の世界記録であるだけではなく、グランプリ男子全体でも4位に入る高得点だ。

羽生に憧れていると語る佐藤は、羽生が好きなプーさんよりパンダを好む。今回4位に入賞した鍵山優真(日本ジュニアチャンピオン)の陰から飛び出した形になった。また、佐藤は2020年ローザンヌ冬期ユースオリンピックで期待される存在になったと言えるだろう。

ロシアのアンドレイ・モザリョフは銀メダルを獲得し、同じくロシアで銅メダルのダニイル・サムソノフもまたエテリ・トゥトベリーゼ門下生の1人だ。

まだ13歳で小柄のサムソノフはジャンプの回転をし過ぎるミスを冒したが、その将来に限りない可能性を感じさせた。サムソノフはオリンピック・チャンネルに対し、「あの女の子たちと同じリンクで練習するのは素晴らしいことです。とても励みになります。彼女たちが上達していくのを見て、自分も負けてはいられないと思うのです。ときどきは、練習の場なのに競争したりすることさえあります」と語った。

「チーム・トゥトベリーゼ」は男子スケートでも新たな伝説をつくるだろうか?

アイスダンスはパパダキスとシゼロンが独走

「チーム・トゥトベリーゼ」が女子スケートのシングル部門を席捲しているように、アイスダンスでは「チーム・ガドボア」が同じような位置を占めている。

モントリオールのガドボア・アリーナで練習を積むマリー=フランス・デュブレイユ、パトリス・ローゾン、そしてロマン・アグノエルらの門下生たちが表彰台を独占し、その中でもガブリエラ・パパダキスとギヨーム・シゼロンのペアがまたしても金メダルを獲得した。

フランス出身のこのペアはリズムダンスで1980年代のTVショー『フェーム』から抜け出したような衣装で登場し、途中で少しの乱れがあったが、パパダキスがすぐに体勢を立て直した。一方、フリーダンスではアイスランドの音楽家オーラヴル・アルナルズの手による独特で不思議な音楽に乗って観客を魅了した。

このペアが2020年3月に地元モントリオールで開催される世界選手権において5連覇を達成することに疑いをもつ人はいないだろう。

「チーム・ガドボア」に加わって2年目のマディソン・チョックとエヴァン・ベイツはフリーダンスで自己最高得点を出して銀メダルを獲得し、同じく米国のマディソン・ハベルとザカリー・ダナヒューは銅メダルを獲得した。

このチームは来年3月のモントリオールでは更なる飛躍を目指すだろうが、2019年世界選手権銀メダリストであるロシアのヴィクトリヤ・シニツィナとニキータ・カツァラポフのペアを忘れてはいけない。今回は6位で終わった同ペアでは、フリーダンスでの得点は殆どの観客が思ったよりはるかに低い採点だったからだ。

伸びしろが大きい隋文静と韓聰ペア

ペア部門では隋文静と韓聰ペアが世界選手権に続いて金メダルを獲得した。だが、その演技は完璧と呼ぶにはほど遠いものだった。

隋はショートプログラムの3回転フリップで氷に手をつき、僅差のリードで迎えたフリースケーティングでは韓がジャンプに苦しんだ。同ペアは僅か7点の差で同じ中国の彭程と金楊のペアを抑えて、金メダルを獲得した。

大会終了後、隋はこの1か月の間に3回の大会という過密スケジュールから疲れが溜まっていたことを認めている。連覇がかかる来年3月のモントリオールで行われる世界選手権ではベストコンディショニングを期待できるだろう。

期待されたロシアのアレクサンドラ・ボイコワとドミトリー・コズロフスキーのペアはフリースケーティングで失速し、2位から5位に順位を落とした。

だが、ロシアはこのペア部門でも銅メダルを獲得している。世界ジュニア部門チャンピオンのアナスタシヤ・ミーシナとアレクサンドル・ガリャモフのペアがショートプログラムの4位から順位を1つ上げたからだ。

原文:CHEN AND KOSTORNAIA REIGN IN TURIN, BUT CAN THEY STAY ON TOP?

翻訳:角谷剛

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